ここ数年山歩きを楽しんでいる。
忘れもしない。数年前の11月のある晴れた土曜日。ちょっとした遊び心から三田にある大舟山を歩いた。しかし、これがしんどかった。今では散歩程度にしか思えないコースだけど、このときはまさしく青息吐息。「体力、落ちてるなぁ」。死ぬかと思いながら辿り着いた山頂は気持ち良かった。今までの苦るしさも汗も吹っ飛ぶ爽快感。「気持ちいい!」
そんな単純な気持ちが導火線に火を付けた。
以来、靴や装備をコツコツと揃え、今では年間20〜25日ほど六甲を中心とした低い山をほっつき歩いている。
「山を歩いてみたい」と思ってはいても、様々な事情で実際に山を歩けない方も大勢いらっしゃるだろう。「ただ怠惰なだけ」と言うのも立派な理由だし、きっかけがなかったり、どうしていいのか良くわからなかったり、身体の具合が悪い方も然り。
そんな方に頭の中でだけでも山を歩く雰囲気を味わっていただきたい。ピークを極める感動と達成感を味わってもらいたい。それを可能にするのが今回ご紹介する「ヒマラヤの青春」という本です。
1978年、立川女子高校の登山部がヒマラヤの無名峰(著名な山ではない、という意味ね)・ゴーキョピーク・5,360mを踏破したときの模様を同行した教師が記録したもの。
まず、女子高校生が海外、しかもヒマラヤに遠征したことに驚く。時代も今とは違い、25年も前の話し。
立川女子高校にとってこの海外遠征が始めてではなかったことや、学業優先で冬休みの限られた日程で実行されたこと、必ずしも全教職員が快く送り出してくれた訳ではなかったことなど、抑制された筆致で書き進められていく。
もちろん、筆者を含め遠征隊員全てが5,000mを超す高度は未体験。自衛隊の協力を得て、減圧室を使った高度5,000mを疑似体験する。
そして、遠征隊はヒマラヤに向けて出発する。
ここで、忘れられないのが実質的にこの遠征隊の隊長であり、全権を掌握し、かつ全責任を一人で背負う登山部顧問の清さんこと高橋清輝教諭の存在だ。
清さんが人間として優れ、リーダーとしての資質を備えていることは徐々に明らかにされていく。
筆者の偉いところは、登山部が形成するヒエラルキーの中には身を置かず、その範囲の外からこの遠征隊を見ていることだ。従って、高橋の描写も距離を置いたものになっている。感傷的にならず、ヒステリックにならず、傍観者の視線で高橋と遠征隊員を捉えている。
想定外、予想外の困難に直面しながらも、遠征隊はゴーキョピークを目指して歩いていく。
そして...
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(本文215ページより)
弟ノブル氏の足が止まった。そこに空白の時があった。足元だけを見つめて攀じるように登ってきた眼を上げると展望が開けている。
頂上だ!
頂上に着いたのだ。
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涙がこぼれそうになった。
そう、この一瞬のためだけに歩いているのだから!
25年も前の話しだが、感動は全く色あせていない。
おすすめの一冊。
この感動は山の高さには関係なく得ることができます。
最初の一歩が踏み出せないあなた、ご一報いただければ、山歩きをご一緒させていただきますよ!
山岳小説としては北杜夫の「白きたおやかな峰」(新潮文庫・絶版?品切れ?)もオススメしておきます。
梅田の旭屋本店2階の文庫売場にて、新刊で平積みされている本書を衝動的に手に取ってしまった。値段を確かめずにレジに持っていったら、いきなり「1,260円(税込み価格)です」と言われ「買うのやめよかな」と怯んでしまいました。
内容のある本だから良かったものの、通常の文庫より若干大きい文庫サイズでこのツカ(280ページ)で1,200円とは、ちと高すぎるように思います。
おしまい。
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