「楽隊のうさぎ」

中沢けい 新潮文庫 514円


  

さわやかな印象が残る青春小説。
書店の店頭で何気なく手にとって買った。ちょっとすぐには思い出せないけど中沢けいって作家はこんな児童向き(?)のお話しを書く作家だったっけ?

すらすらと読み進めることが出来る。
主人公の奥田克也は中学に入りたてだ。学校にいる時間はなるべく短くしょうと考えている。なぜなら克也は小学生のときに「いじめ」にあっていたから。学校には勉強だけしにいく。その他の人間関係は全て断ち切ってしまいたいと思っているからだ。
それが、こともあろうに学内でもっとも在校時間が長くなる吹奏楽部に入ることになってしまった。知らず知らずのうちに克也は吹奏楽の魅力に、そして何かに熱中し集中する楽しさにとり付かれていく。
時折、小学校時代のいじめっ子たちとの会話や視線のやりとりが描かれるが、そのやりとりの中でどんどん克也が大きくなっていくのがわかる。大きくなるのは身長や声の大きさ、腕力の強さではなく、心の強さ、人間としての大きさなのだ(素晴らしい!)。

そして、個性と個性が激しくぶつかり合いながら、一つの目標に向かって強調していく、音楽を作っていく吹奏楽の素晴らしさが随所に熱く語られている。50人の中学生が全身全霊を傾けて一つの目標に向かって突っ走って行く。その勢い、エネルギーはなんて素敵なんだろう。
こんな中学時代を送れたら幸せだったろうな、と思わせる。遥か彼方に過ぎ去った自分の中学生時代を思い出させる一編です。

気持ちのいい作品。おすすめです。

おしまい。

※作者のこの作品に関するコラムがこちらに掲載されています※