この小説を原作にした映画「夜を賭けて」を観て、ストーリーの面白さに惹かれて原作を読んでみたくなった。映画に負けず劣らず、骨太で面白いお話し。
昭和30年代の大阪を舞台にして、在日朝鮮人の主人公が暴れまくる痛快な作品だ。この小説は在日朝鮮人の問題を抜きにしても純粋にストーリーとして楽しめるので、この手の話しが苦手な方でも面白く読んでもらえるのではないでしょうか。
本編は三部で構成されている。今回映画化されたのはその第一部だけだ。だから、第二部以降も映画化されるかもしれない。第一部は神武景気も去り、「なべ底」不況のどん底であえぐ日本の中でも底辺に属する部落に住む住民が、川(運河?)の向かいにある旧大阪造兵廠跡地(現在の大阪城公園)に眠るくず鉄や鉄製品の残骸を掘り出して屑鉄屋に売りさばくお話し。戦後長い間手付かずのまま放置されていた大阪造兵廠跡地に忍び込んでは金目のものを発掘して持ち帰る「アパッチ族」。それを管理する近畿財務局の警備員や警察との攻防が書かれている。
第二部はアパッチ族のなかでもリーダーと目されていた一人、金義夫が刑事に目をつけられていたばっかりに、逮捕され、執行猶予で釈放された直後に入国管理局から密入国の疑いで大村収容所に送られてしまう。そんな彼を密かに慕っていた初子の恋物語にガラッと装いを変える。
そして第三部は大きく時が流れた現代において、アパッチ族として共に汗を流した張有真と金義夫が偶然大阪城公園で邂逅し、昔を振り返るちょとクールなタッチのお話しとなる。
全体的には連綿と繋がる一つのストーリーになっているのだが、各々は随分語り口調もテーマも違っている。激しさが全面に出た青春物が忍ぶ恋の恋愛物に変わり、更に昔を懐かしむ口調になってしまう。
断然面白いのは第一部。そこには生き生きと動くキャラクターが見事に描かれている。語り口調も滑らかだ。犯罪すれすれ(いや、犯罪そのもの?)の日々の営みが面白おかしく、そして時に悲しく語られている。読み進むうちに在日問題についても、頭の中にすらすらと入っていく。
この本を読んでわかってきたのは、戦後多くの在日朝鮮人が北へ渡った理由だ。今までボクは単純に出身地が北だから、あるいは共産主義、社会主義に賛同し(憧れ)て選んだという積極的な理由だと思っていた。でも「南韓が嫌だ」という消極的理由も色濃かったんだな、と初めてわかった。今度は韓国の現代史を扱ったお話しを何か読んでみたいな、と思う。
おすすめ度がかなり高い一冊。値段分の価値はあると思います。
おしまい。
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