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独特の風貌をする“とんがり君”こと経ヶ岳 |
訳あって週末に長崎へ。
長崎と言えばグラバー亭に眼鏡橋、浦上天主堂ですか。ボクがお邪魔したのは長崎市ではなく多良見町。その晩は大村に泊まる。
事前に地図帳でチェックしたところ、付近には多良山系があり、その最高峰は経ヶ岳(1,075.7m)。地図上で見る限り、綺麗な円錐形を描いた山のようだ(後に、間違いだとわかったけど)。よっしゃ、この山にアタックすることにしよう。長崎の山なら自生のツバキにもたくさん会えるかもしれない。
ネットで検索するもののあまりヒットしてこない。書籍に当たると、この経ヶ岳は割とポピュラーなコースのようだ。1,000メートルは超えているけれど、登山口からピークまでおよそ2時間と手頃だし、帰り道に少し足を伸ばせば温泉で汗を流せそうだ。
装備は前もって宿に宅配便で送っておく。25,000分地図は福岡で買う。これで準備万端。後は天気予報だけ。だが、どうも生憎な予報が続く。大丈夫かな。前日は絵に書いたような日本晴れだったけど...。
前日の仕事中に「あの山は何ですか?」と地元の方に聞くと、なんと「トンガリ君です」なんて返事が返ってきた。諫早方面から見るよりも、佐世保方面から見上げる方が印象に残る山容です。
陽が出るのがすっかり遅くなっている。この日の長崎の日の出時刻は7:15ごろ。明るくなってきたのは6:45ごろだった。
大村の市街地ではワイパーを動かすこともあったけれど、幸いなことに一瞬だけ。見上げると青空ものぞいている。雲が広がっていたせいか、放射冷却も無く少しも寒くはない。手袋もマフラーもフリースも全部ザックに入れたままで充分だ。
黒木にある舗装された駐車場にクルマを停め、入念にストレッチと準備体操。素早く装備を整えさぁ出発。大払谷コース。
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ここからスタート |
コンクリートで固められたコースをしばらく行くと、すぐに田んぼ道になり、そのまま山道になる。やがて立派な標識が出て来て、その手前を右に。谷に下り、流れを渡るとすっかり登山道の趣になる。
山を歩きははじめると、だんだん熱くなってくる。普段の生活では、そんなに歩かない。だけど、山に来ると一生懸命歩いてしまうからなのか、体が暖まってくると、エンジンが掛かってくる前に、なんだか身体中の血液が逆流しているような熱さ(コーフンしているのかな?)を感じる。そして、あらゆる毛穴から汗が噴出し始める。そんな身体の反応を感じながら「今日も山に来たんだな」と思ってしまう。熱さも一巡して、息も整いはじめると、ボクのエンジンも軽快に回り始めるのだ。
どんどん谷を詰めていく。
それも一気に高度を稼ぐ。直登にして急登だから、正直に言ってかなりキツイ。スピードはどんどん落ちる。汗もどんどん落ちる。最後、谷筋を離れてからは稜線までを急角度に上がる。振り返ると少し恐いほど。
地図で見て、等高線の混み具合から予想はしていたけれど、ここまでキツイとは思っていなかった。木々の梢の合間から空が見え始め「もうすぐかなぁ」なんて思ってからが長かった。
実はここまでは序の口で、稜線の道に合流してからピークまでがもっと厳しい。
今度は岩のコースとなり、要所にはロープが幾重にも張り巡らされており、このロープを頼りに文字通り「よじ登る」。「こんだけロープに頼っていると、腕が痛くなるやろな」なんて心配してしまうほど。それに稜線に到達したことで、ちびっと気持ちが切れてしまったようなところがあって、それも影響したかな。もうほとんど這うようにして、ようやく山頂だ!
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ようやくたどり着いたピークは展望がまずまず |
南側には霞の間から雲仙普賢岳が望める |
残念ながら、そんなに大きな感動を得られたわけではなかった。う〜ん、どうしてかな?
早朝に雨を降らせた雲は払われ、快晴とは言えないがそこそこの晴天。南側と西側には海が広がっているのかと思っていたら、そうでもない。山また山。それに地上付近はかなり霞んでいる。遥か南側には霞みの中ににょっきりと雲仙普賢岳と平成新山が顔をあらわしている。
汗をびっしょりかいている。気温も低くない。
タバコをくゆらせながらストーブに火を入れる。ザックを降ろした背中からは湯気が上がっているんだろうな。
それにしても特筆すべきなのはその静けさ。
誰にも合わない、クルマの音やその他の騒音はない。耳に届くのは鳥たちのさえずり(主にヒヨ)、葉を揺らす風の音、そしてボクが発する歩く音や、荒い息。
帰りはもう焦ることはない。それに予想以上にハードだったので、帰り道に多良岳に足を伸ばすのもやめた。すると、時間的にはかなり余裕が生まれる。帰り道は平谷越、中山越を経て八丁谷コースを降りるというショートカットコースを選択した。実は久し振りの山歩きで少しくたびれていた(情けないなぁ)。
山頂から平谷越までが、先ほどの登った最後の急登と同じようなコースを降りることになる。ロープを伝って降りるのはちびっと恐い。出来れば手袋の準備があった方がいいでしょう(ボクもザックの中には入っていたけれど、出すのが面倒臭くて使わなかった)。
後は強引なコースアレンジもあるけれど、おおむね軽快なコースとなる。
事前の予想通り、野生のツバキがたくさんある。ツバキは「艶葉木・つやばき」が転じてその名になった(らしい)。なるほど、この季節でも青々としたその葉は、花が咲いていなくても目に付くわけだ。それにコース上にもあちこちに赤い花が落ちている。その花の下から見上げれば、数は少ないものの花を咲かせている。
一つだけ、葉も花もほとんどサザンカのようだけど、多分ツバキなんでしょう、薄く細い花弁の白花が咲いていた。少しだけ穂先を採集させてもらった。上手く付けばいいけどな。
中山越からは沢をつたいどんどん降下していく、いつしか水量も増してくるとぽっかりと林道との出会い。見上げれば、あれが経ヶ峰かと思うが、地図で確認すると、どうやら無名の前衛山らしい。
途中で作業中の林業組合の方数名に出会う。この山で初めて会う人。その後、簡易ゲートを過ぎるとすぐに駐車場、もう少し歩くともう一つ駐車場がある。その近くに山水が湧き出している場所があるようで、幾つもの大きい容器を持参している方がいる。長崎だと大阪よりも水道の味もましだと思うけどな...。声を掛けられ、ボクも持っていた空のペットボトルに入れさせていただいた。鮮烈な冷たさかと思ったら、ほのかな暖かさと丸みを感じさせる味でした。
さぁ、もう一息で黒木。
クルマに戻り、ザックを降ろしたら、それを待っていたかのように雨がぽつりぽつりと...。
帰り道、国道444号線を鹿島市方面に向かい、トンネルを佐賀県がわに出てほんの少しの場所にある平谷温泉で汗を流しました。ここの温泉は別に何もないのですが、その何もないところがいい。設備は新しくて清潔。無色透明で無臭のお湯は湯量が豊富でほんとうにのんびりしてしまいます。有馬で反省する前に、佐賀の平谷温泉で静かにこの一年間の反省をしました。
トンネルを出てすぐにも水汲み場があり、こちらは大賑わいでした。このあたりの方も水を汲みに来るのはちょっと意外でした。
何時間もかかるコースを歩くのは久し振りだったせいか、自分でも情けないほどのバテ方で、ちょっとショックでした。そのしんどさの割には得るものがもう一つで、残念。
コースそのものもなかなか厳しい上に、二度もコースを見逃してしまいました(都合1時間ほどロスしてしまいました)。また、行きしなの大払谷は、恐らく従来は最後まで谷を詰めるコース設定がされていたのだと思いますが、途中で植生のなかに誘導されていて、そこから先が厳しい上に何の標識もなく、ちょっと「?」。
ラストの急登も含めると、ファミリー向けと言うよりも、好事家向けでしょうか。もし、スカッとした晴天であったら全く違う感想を持った可能性もありますけどね。
おつかれさまでした。
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