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「二の鎖」を見上げる(ちょっと恐い) |
真夜中に降り始めた大粒の雨が屋根を叩く音で目が覚めた。
一瞬、今、自分がどこに居るのかわからない。
そうだ、山口に来ていたんだ!
昨夜は一杯飲んでご馳走をいただき、そのまま気持ち良く床に入ったのだった。
雨音を聞きながら「今日はもうアカンかな」と思う。「これだけ降ったら中止やなぁ、山は逃げへんしなぁ」と考えているうちに、もう一度夢の彼方へ...。
セットした目覚ましで目が開く。
もう雨音は止んでいる。昨夜見た天気予報では山口地方は「快晴」だった。どうしよう。外はまだ暗い。それでも、そうそう山口に来るわけでもなし、快方に向かうのも間違いない。あかんかったら引き返して、朝寝を楽しむのもいいだろう。そんなわけで、ゴソゴソと装備を整え、予定より少し遅れて出発。
山口の明け方の空気は、晩秋とは思えないほどむっとした湿気を含んでいる。霧が随分濃く垂れ込めている。
ひと気(くるま気?)のない中国道を東へ。鹿野(かの)まで。
雨は降っていないが、空気中に漂う水気が多くて窓にへばりついてくるのでワイパーを動かしながらの運転。鹿野インターを降りる頃にはすっかり夜は明けているけど、ほとんど見通しが効かない乳白色の世界。鹿野からはR315を北へだいたい10km。およそ15分ほど走ると道端に「莇ガ岳(あざみがたけ)登山口」の標識が目に入る(見逃さないように!)。ここから沢沿いに石鎚神社の前を抜け、国道から15分も行けば車道は終わり、10台ほど置ける駐車スペースになっている。ここが登山口。すでに2台停まっている。
まだ半分寝ているような身体を準備運動でほぐす。靴紐を締め上げ、スパッツをつけると気持ちもしゃきっとしてきた。ザックをかついで、さぁ、出発!
ほんの最初は沢沿いを行き、すぐにヒノキの植生林に入る。いきなりの急登。
細かいジグザグを過ぎれば自然林に入る。最初からラストまでひたすらに急坂を上がることになる。
15分も歩けば汗が流れ出し、ヤッケを脱ぐ。視界は20mほど、展望は全く効かない。
コースそのものはしっかりしているものの、やや荒れ気味で歩きにくいし、それでなくとも角度が急なのでけっこうつらい。5分おきほどに汗をぬぐうために一息入れてしまう。ガスで周囲の景色が見えないから、気の紛らわしようもないことが、ますます「しんどさ」に拍車をかける。いつの間にかタオルは汗でびっしょり。
上から、鈴の音と共におじさんが降りてくる。足元はゴム長、手には懐中電灯。「おはようございます」と挨拶を交わす。
青息吐息でふらふら歩いていると、下からほら貝の音が高らかに響いてくる。最初はこんな山奥でクマがトランペットのお稽古でもしているのかとも思ったんだけど...。どうやら山伏のほら貝のようだ。
ようやく、八合目の分岐点。左に直登すれば「巻き道」。右の水平路を選べば「鎖場」。この山のハイライト「鎖場」を逃す手はない。右へ進む。
またもやほら貝。さっきよりずいぶん近くに聞こえるような気がするなぁ。ずいぶん差が詰まったな。
しばらく平坦な道を行くと、唐突に「鎖場」に出る。ここは「一の鎖」と「二の鎖」の中継点。
「一の鎖」を見下ろすと、それはもう「恐い」ほど。「二の鎖」を見上げても「恐い」。これって「進退きわまったの?」。
コースはさらに地道が続いているので、さきほどの分岐での「巻き道」以外にもきっとこの先にも「巻き道」があるのでしょう。でも、せっかくここまで汗を流したんだからチャレンジするしかない。でも、岩は濡れて滑りやすそうだけどなぁ...。
見るのと行くのとでは大違いで、手のひらにじわっと汗はかいたものの、何とかクリア。鎖の上にはお地蔵さんが待ってくれていました。こうしていつも見守って下さっているのですね。ありがとうございます。
息つく間もなくすぐに「三の鎖」。ここは「二の鎖」の倍はある。六甲の荒地山にある「岩梯子」を思い出すけど、そのスケールでは比較にならない。もちろん今日のコースがずっと上。
まぁ、落ちても死ぬことはないでしょう。冷や汗が出ることもあったけれど、どうにかこうにかへっぴり腰でしがみつく。こうしてみると、普段の生活でいかに腕の筋肉を使っていないかがよくわかる。二の腕がジンジンしびれる。
「三の鎖」の終点はもはや頂上直下。草むらを抜けるとそのまま頂上でした。
いやぁ、きつかった。
「鎖場」で目先が変わったので、最後まで頑張れたけど、あのままの直登だけでは途中で嫌になっていたかもしれない。
本やサイトでは「絶好の展望が広がる」と解説してあったけど、あたり一面は乳白色のガスと雲だけ。とにかくザックを降ろし、汗をぬぐう。「鎖場」でたっぷり流した冷や汗は随分引いていたけどね。
記念撮影を終え、ストーブに火を入れると、またしてもほら貝が響く。そうこうしているうちに荒い息を弾ませて山伏の姿をした行者さんが上がってきた。
「ごくろうさま。おはようございます」と挨拶を交わす。
「今から、行(ぎょう)をしますので、うるさいでしょうがご勘弁ください」とおっしゃり、山頂の祠の前に塩を振り、どっかり腰を降ろされる。
「ラーメン食べてもいいですか?」
「どうぞどうぞ、お構いなく」
片やでシーフードヌードルをすするおっさん(ボクのことです)。片や白装束で熱心にお経を唱える行者さん。このアンバランスさは何とも言えないですね。
帰りは来た道を戻るんだけど、「鎖場」を降りる勇気はなかった。「巻き道」を下る。
ようやく、ほんの少しガスが切れ始めた。上りのときは余裕がなくて気がつかなかったけれど紅葉が美しい。それにしても、上るも下るのも急で気を使わされるコース。ついつい木に手をついてしまい、幹を揺らし、葉に乗った雨水を全身に浴びてしまう。
最後の最後、植生の森の中で、20名ほどのにぎやかなグループとすれ違う。登山口はクルマで満杯になっていた。準備中の方も20名はいらっしゃたでしょうか。三連休の中日でもあったけど、なかなか人気のコースのようですね。
今回、ボクは静かにこの山行を楽しめたものの、景観は全く楽しめなかった。
次回は天気のいい日にあの「鎖場」にもう一度チャレンジしてもいいかな。その時は弟見岳への縦走も計画したいですね。ちょっとコースの荒れ方が気になりますが、予算があれば周南市に整備を是非お願いしたいですね(コース上の標識も含めて)。
鹿野までの田舎道の風景は晩秋ではなく、初冬を思わせる。
鹿野インターを越えると、左手すぐに「鹿野グリーンパーク」がある。ここには温泉があって、日帰り入浴もOK(330円)。たっぷりかいた汗をすっかり洗い流して山口へ戻りました。
おつかれさまでした。
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