毎日コンクリートとアスファルトに囲まれた都会で仕事に追われていると、ほんとにイライラしてくる。特に灼熱の残暑に襲われ、ちびっと忙しくってきた今週は、身体中に「澱」のような細かい「怒」というか「苛」が蓄積されて、もうどうにもならない。
悪いことに、楽しみにしていた釣行が台風の影響で中止になり、これはどこかで発散しないと不完全燃焼を起こしてしまいそうだ。
で、かねてからの計画通り但馬路へクルマを向ける。
行きしなは、宝塚から高速に乗り、舞鶴道を福知山まで。ここから国道9号線を西へ兵庫県の西の端・温泉町へ。県境のトンネルの手前を南へ折れ林道を走れば登山道に着く。
自宅を2時過ぎに出て、河合谷の登山口に着いたのが5時半なので、いつもながら長いドライブになる。連日の2時起きで、眠たかった!
阪神間では綺麗な星空が広がりお月様も輝いていたが、春日あたりでは濃霧になり、夜久野からはワイパーを動かすようになった。雨の中の山行はツライけど、ここまで来たら仕方ない。目に飛び込んでくる「現在温度」はおおむね23度ほど。関宮町を通り越しても細かい雨が降り続いている。
登山口の手前で、まだ薄暗いのに10名ほどのおばさんハイカーの集団に逢う。静けさが取り柄のこのコースでかしましいグループとご一緒なのはついてへんなぁ。
水の広場にはクルマは無い。幸い、雨は落ちていない。でも、草はしっとり濡れている。軽く準備運動をして、手早く装備を整える。湿度は高そうだが、暑くはない。ヤッケも着る。このコースは「ヌタ場」が多いのでスパッツも付ける。ストックを延ばして準備完了。
今日、どうしてこのコースを選んだのか。
静けさと濃厚な自然に包まれたいからだ。
確かに、西宮からは相当遠い。その割には達成感に薄いコースであるのも確か。でも、それを補って余りある魅力が隠されている。六甲や丹波の山では決して味わえないものがある。
一度歩いたコースを再び歩くのはそれなりに理由があるもんなんですね(ここ扇ノ山は三度目だけど。
たちまち登山靴は泥にまみれる。台風の影響か、相当雨が降ったようだ。コース上にも枯れ枝がたくさん落ちている。「ヌタ場」は泥沼と化してくるぶしあたりまで埋まる。
先ほど見かけたおばさんのグループはどうしたのだろう? 足跡は付いていないし、クモの巣だって払われていない。まだスタートしていないのかな?
このコースは息が上がらない。もちろん、基本は上り調子だけど、それはだらっとしたもので急な箇所は数えるほど。
聞こえるのは、ボクが歩く音。土を踏む音。スパッツがこすれてたてる音。登山靴とソックスがこすれてキュッキュッとなる音(この音がちょっと気になる)。
深い深い、ブナの森。立ち止まってみる。
まず、風の音。風のとは、高い梢が上空の風に揺れ、葉がふれあっている音。
雫の音。葉に貯まった水が風に揺られ、大粒の雫になって落ちる。雫は直接地面に落ちるのではなく、下にある葉や枝にあたり、もっと大粒になったり、小さくなりながら落ちてくる。
鳥たちの音。森が深すぎるせいか、あまり聞こえない。
ボクの息。汗びっしょりだけど、きつくないコースだから。荒くない。平常と少しも変わらない。
こうして耳をすますことが、普段の生活で何度あるだろう。
ガスが流れてくる。音もなく。
最初は漂うように、右手(西側)からかすかに流れ込んできた。たくさんの白糸が見えない手で操られているように。細い糸がたちまち布になり、あたりは急に乳白色の世界になる。
このコースは一本道だから迷う心配はない。視界は100メートルあるかないか。
いつの間にか展望台、これをやり過ごすとブナの木のアーチに迎えられてピークに到着。スタートから1時間ちょっと。
温度計を見ると20度を少し割っている。展望は「0」。
雨こそ落ちてこないが、落ちていないだけで、空気中を細かい雨(水)が漂っている。
そして、静かだ。人工的な音は何もない。この静けさ独り占め。
帰り道は三人組のパーティ、単独の男性とすれ違う。
あのおばさんたちは一体? どこに行ったのか? 幻でも見たのか?
ガスが払われ、東側から陽が差し込む。
登山口は広々とした水の広場になっている。持参の洗面器を使い、水浴び。身体は火照って暑いけど、そんなに気温は高くない。パンツ一丁で氷のように冷たい水を頭からかぶると、心臓が悲鳴を上げました。ぶるぶる。
帰路は鳥取側に下り、29号線を山崎まで。途中、ブロッコリーの苗を買い求め中国道に乗り帰りました。
気分はすっかりリフレッシュされ、もう少しがんばってみようかなって気分になりました。
おつかれさまでした。
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