キャッスルピーク・青山を征服(?)した翌日は西貢東郊野公園にあるシャープピーク([虫冉]蛇尖・468m)にチャレンジ。
キャッスルピークはその立地がどこか都会的なのに対してこのシャープピークはまさしく野性的。一般的な香港のイメージからはかけ離れた立地にある。自然に囲まれていて、この山の近くにはほとんど人工的な建造物は存在しない。
香港特別行政区の中でも西のはじっこに位置する、その鋭くとんがった山容は、文字通りシャープで、とても468mには見えない。この山の写真を光頭老さんのweb-siteで見かけ、是非歩いてみたいとチャレンジを決意した。
昨日と同じ時間に地鉄で旺角を出発(実はこの時間が始発なのだ)。
鑽石山の駅に隣接するバスターミナルでバスに乗り換える予定だったが、ボクが乗りたい黄石行き96Rのバスが96R専用のレーンに停まっていない。バス停の時刻表を確認すると96Rは土日祝のみの運行らしい。ここからは96R以外には黄石へ行くバスはなさそうだ「こりゃ、タクシーを飛ばすしかないかな」と思ったが、実は財布にはそんなにたくさんの現金が入っていない。困ったなぁ。ターミナルにあるバスの運転手さんの詰所へ行き尋ねる(もちろん筆談)。すると「坐92号 到終点站 再轉坐94巴士」と書いてくれた。助かった。
92バスは西貢行きだ。西貢から94の黄石行きに乗り換え。西貢での連絡時間があったのでバス停前のパン屋でパンを買って腹ごしらえ。その間に、なんと驚いたことに二階建てのこの94バスはお年寄りから若者まで様々なグループを載せて満員になってしまった(水曜の朝だよ!)。
すっかり郊外というか海沿いの田舎道をバスは走る。車窓に広がる風景は香港というよりも大陸のどこか田舎を走っているようだ。途中で海辺を離れ山の中に入る。エンジンが唸りを上げて坂道に挑むがエンジンの騒音と反比例するようにスピードは落ちて行く。やがて峠を越え、あっけなく終点の黄石に到着。ここは野外活動センターのようになっている(途中にも何箇所かそういう施設があった)。
黄石のバス停からた来た道を50mほど戻ると小さな桟橋が突き出ていて、ここからフェリーが出ている。しかし、事前の情報によると海上タクシー(公認ではなさそうだけど)がありそれが便利らしい。その存在は桟橋まで行くとすぐにわかった。一番近くのボートに乗っているおばちゃんと交渉を開始。海の上と陸上では筆談なんて出来ないから、身振り手振りで必死だ。しかし、なんとかお互いの意思は通じるもので、ボクが行きたい沙頭桟橋(赤徑)までHKD50で交渉がまとまった。事前の調べではHKD20が相場らしいが、この際仕方が無いか。94バスには70〜80人は載っていたと思うけど、沙頭へ向かうのはどうやらボクだけのようだ。今日は人に会わない静かな山が楽しめるのかな。
小舟に乗り込むと、おばちゃんはフルスロットルで海上をぶっ飛ばす。怖いぐらい。ビュンビュン行くよ!
突き出した半島を迂回するように走り、およそ5分ほどで湾の最奥にある目指す沙頭桟橋に到着。人影は無い(おばちゃんは残念そうな顔をしていた)。桟橋にはフェリーの時刻表があり、午後のフェリーの時刻をメモする。
装備を整えてて、ストレッチと体操。靴紐を締めなおす。体調はばっちり。しかし、今朝の上空は厚い雲が垂れ込めている、今にも雨粒が落ちてきそうではないけどね。ここからまず、大波凹を目指してスタート。
海岸沿いの良く整備された遊歩道を歩いているとすぐに、前方に黒い大きな物体が動いているのを発見「?」 よく見るとその物体は牛だった。ひょっとして「野良牛? それとも放牧されているのか?」遊歩道をふさいで悠々と立っている。こんな大きな牛に立ち向かう気はさらさらありません。いったん海岸の岩場に降りて牛を迂回。その後、至るところでこの野良牛たちと彼らの排泄物を見ることになるんだなぁ。
一本目の川に掛かる橋を渡ってすぐにある分岐を川に沿って山中に進む(地図上では橋から少し先に分岐があるようになっていますが)。水道局の工事が行われており、コース上はあちこち掘り返されているけど、基本的にはコンクリートで舗装された散策コース状になっている。上り基調なものの勾配はさほどきつくなく、左手に川の音を聞きながら低木の森の中を歩みを進める。森の中を進むので時折野鳥のさえずりが耳に届く、姿はみせてくれないけど。
ちょっときつくなったかなと思うと、間もなく大波凹に到着。ここには屋根がついたベンチとゴミ箱、緊急用電話(これが電話か?っと思ってしまうような電話というか箱)が設置されている。意外と汗をかいている。昨日に比べると湿度が高いのか? 気温は15度ほど。ベンチに腰掛けて、タバコを一服。
ここが分岐になっていて、このまま進むと咸田湾、左手(北東)に折れるとシャープピーク。もちろん左手に折れる。セメントで固められた遊歩道は終わり、ここからは地道のコース。
小高いゆるやかな丘を歩くと、地元の方らしいおっちゃんがペットボトル片手に普段着で降りてきた。「ちょぃさん」と声を掛けてくれる。ボクは「おはようございます」と日本語で応える。ペットボトルには米粒ほどの大きさの何かの幼虫(白い芋虫)が容器の半分ほど入っている。このおっちゃんがたった今近くで採集してきたみたいだ。何か説明してくれるけどよくわからない(いや、全くわからない)。きっと小鳥の餌として高く売れるのだろう(?)。
この丘を詰めるといきなり眼前に視界が大きく広がり、シャープピークを含む東側一体が姿を現す。
言葉では表せないほどの素晴らしくて雄大な景色だ。敢えて言えば、阿蘇の草千里の半島版とでも言おうか。一面が草に覆われていて木立はない。シャープピーク以外はゆるやかな大地の凹凸で、その切れ目は海にストンと落ちている。とてもじゃないけど写真には収まりきらないょ。
正面にはそそり立つシャープピーク。この山に続く道が草原の中に続いている。見上げれば数箇所急峻な壁になっている。稜線を辿れば幾つかのピークを経てこれまた海に向かう。左右が海。今、半島の付け根に立っている。右手にはビーチが見える。振り返ればちょうど真南にも海に突き出した尖頭状のピークも見える(シャープピークのような迫力はないけど)。
しばしこの景色に心が奪われる。この景観を見るためにだけでもここに来る値打ちはある。ただただ素晴らしい。急に風が強くなってきた。
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ほんとに「写真にはおさまらない!」
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稜線の草原をコースに沿って歩く。楽ちんな散策道だ。やがて少し下り[虫冉]蛇凹の標識。また上り基調に転じて風化が進んだ道をとことこ進むと一つ目のピーク。振り返るとこの地域の雄大さがわかる。コースに目を転じると白っぽい壁が目前に控えてる。
この壁がなかなかの難関。へばりつくように手をついて一歩一歩進む(いや、よじ登る)。ちょっと冷や汗もの。正直言ってこの壁の途中ではびびってしまい振り返ることができなかった(芦屋の荒地山にある岩梯子の数十倍のスケール!)。しかし、足を滑らすことも滑落することもなく無事通過。壁を詰めた肩で休憩。いやぁ、素晴らしい!
このコースは全体に砂というか砂利と表現しようか、風化した花崗岩(だと思う)のかけらが浮いていて、結構滑りやすくなっている。乾燥した状態でそうだから、雨の日は要注意でしょう。しっかりグリップの効く靴が必要です。また、上り下りとも急で手をつくことも多いのでストックはあまり効果的ではないように思います(かえって邪魔になるかも)。
また、ピークハントを目的にされないのであれば、壁や急な登りを回避できる「巻き道」も用意されています。
今回歩いて強く感じたことは、これが国内のコースであれば急な登りを避けて九十九折にするような箇所でも、直線的で急角度の道がついていることですね。だから結構ツライんです。これはせっかちな香港人の気質がそうさせたのでしょうか(でも、きっと英国人たちがトレッキングをしたいがために作らせたコースだと思うんだけど)?
さて、壁を通過すると眼前には急峻なシャープピークの頂きが間近に迫ってきた。胸突き八丁の急登を息を荒くして二度越えるとついに山頂。なんとも言えない感激!
振り返ると今歩いて来たコースが草の中に延々続いている。途中に5人ほどのパーティがこちらに向かっているのが見える。今日はここまで芋虫のおっちゃん以外に人には合わなかったんだけど、山頂には何故か先行者がいて、こちらを見ながらにこにこしてクッキーを食っている。様子をみるとこの若いおにいちゃんは昨夜からここに居るみたいで三角点には寝袋やら食料・ランプ・本(ハードカバーで英語の本だ)などが置かれている。こんなところで何してたんや?
これで、天気が良ければ言うことなし。でもそれは仕方ない、そこまで望むのは贅沢。
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頂上にはポツンと三角点 |
今あるいてきたコースを振り返る |
記念撮影をして水分を補給(500mlのペットボトル1本だけは失敗やったなぁ)、タバコをくゆらす。爽快、愉快。おにいちゃんがクッキーを勧めてくれる、でも食べたくないので断った、悪かったかなぁ。
荷物をまとめて降りようとしたら、周囲は断崖絶壁。「あれ、どこから降りるんやろう?」って感じ。米粉頂に通じる急角度のコースをそれこそ転がり落ちるように下って行く。振り返ればシャープピークの山頂ははるか上だ。山頂から東湾の海岸までは長い急降下の道。足元には充分な注意が必要。
この降下中にとうとう雨粒が落ちてきた。一緒に後続のパーティの叫び声も山頂から降ってきた。こちらの方は山の中で大声を叫ぶ習慣があるようだ(マジで)。香港の人はストレスが多そうやからなぁ。そういえば、国内の山中で「ヤッホー」と叫ぶ声もすっかり聞かなくなったなぁ。幸い、雨は一瞬だけ、助かった。
きれいなビーチ。波は荒いよ。東湾、大湾の二つのビーチを砂浜に足跡を残して横切る。こんな辺鄙なビーチでサーフィンをする酔狂な若者もいないかと思ったら、次の咸田湾では波と戯れる白人の若者二名発見!
またここ(咸田湾)にはビーチに食堂兼売店が二軒。ちょっとビックリしました。きっと週末にはそこそこ人が訪れるのでしょう。この日もテラス(?)には10名ほどのお客さんがいましたから。
途中、大湾の南端付近から見上げるシャープピークの姿はなかなか秀逸、山の全容がわかります。またここからか、大波凹を過ぎた丘の上からの姿(こちらは雄大さが素晴らしい!)が双璧でしょう。
海岸線に別れを告げ、二軒のお店の間を通り抜けるようにほんの数件だけの集落を過ぎ、川沿いに大波凹に向かいます。ここからは美しい化粧ブロックを敷き詰めたコースになります。
やがて、小さな集落(ここにも一軒食堂兼売店あり)。ここから大波凹まではセメントで固められた道。もうすっかり気が緩んでいるだけに単調でしかも思いのほか急な登り道にアゴが上がりそうになってしまいます。右手にずっと姿を見せてくれていたシャープピークの姿がついに木々の中に消え(名残惜しい)、最後の急坂を踏ん張ると、やがて見覚えのある屋根つきベンチ。しばし喫煙タイム。
ここ(大波凹)からは沙頭までは緩やかな下りをちんたら歩くだけ。メモを見ると12:20のフェリーには間に合わないけどその次の13:20には充分間に合う。のんびり歩みを進める。
桟橋は例によって人っ子一人の姿もない。桟橋の根元にある屋根がついたベンチで汗を吸ったシャツを着替えて、桟橋に向かう。もう一度フェリーの時間を確認すると、ボクが行きしなにメモした時刻表は土日祝のダイヤだ。平日の次のフェリーはなんと16:30までない。
「ガ〜ン!」
呆然としてしまう。時折はるか沖合いをボートが通り過ぎていく。手にしたタオルを降って叫んでみるが(ストレス発散?)気づいてくれる訳もない。座り込んで地図を広げる。どうやら西に向かって峠を一つ越えれば、北潭凹のバス停に出られそうだ、1時間から1時間半ほどかな。気持ちは切れているけど待ってられないから歩くしかないか。緩めた靴紐と気持ちをもう一度締め直していたら...。
モーターの音がぐんぐん近づいてくる。顔を上げたらボートが2艘近づいて来る!
「助かった!」
手を振ってアピールしたらそのうちの一艘が接岸してくれた。まさか、さっきの叫び声が届いた訳ではないだろうが、何ちゅうラッキー。おっちゃんに地図上の黄石を示すと頷いてくれ、いきなりフルスロットルで発進だ!!
「いつか必ずもう一度歩いてみたい!」後ろ髪を引かれながら沙頭を後にしました。
シャープピークはほんとにいい所です。香港に行くチャンスがあり、もし丸一日自由に使える時間があれば是非歩いて見てください。必要なのは地図と充分な装備、そしてほんの少しの行動力だけです!
長時間の歩行はイヤなら、沙頭桟橋から大波凹の展望の効く丘の上までのピストンでもOK(歩行時間は往復で1時間強ってとこでしょう)。それだけならたいした装備も必要ありません。
ほんまに観て、歩く価値がありますよ!
黄石には売店はなさそうです(ひょっとしたら野外活動センター内にあるかもしれないけど・未確認)、食料品・飲料水は出発地か西貢までで準備してくださいね。
※参考地図:
(地図名)西貢及清水湾郊區地図 第七版・2002/Countryside Series Sai Kun & Clear Water Bay Edition 7 2002
(発 行)地政総署測絵所発行/Survey & Map Office Lands Department
今回の二日間で、ある意味香港らしい山を歩くことが出来ました。キャッスルピークは高層マンション群に隣接し、シャープピークは人気のない自然に囲まれた美しい景色の中にありました。
今まで香港へは何度かお邪魔していましたが、こんなに素晴らしいコースがあるなんて考えもしませんでした。
私にとって、今回の旅はまさに「Discover HongKong」。全く知らなかった香港を発見し、体験することが出来ました。
今回のこの山行が実現したのも光頭老さんのおかげです。本当にありがとうございました。何時の日かご一緒に香港の山を歩けることを夢見ています。
おつかれさまでした。
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