「ソウル〜丹東〜瀋陽(2000年7月)」

仁川〜丹東を「東方明珠」号で旅する


その2・仁川国際フェリーターミナル

  

昨夜、一人で飲んだ深酒が体に残って、ボクにしては珍しく、朝寝坊。
横殴りの大粒の雨が激しく窓を叩いている音で目が覚める。
ビールとソジュだから二日酔いはしていない。でも、これはどう考えても台風の雨やな。フェリーは欠航せんとちゃんと出航するんやろか。出航してもごっつい揺れるんとちゃうかなぁ。どんどん心配になってくる。
少しでもしゃべれたり、聞き取れたり出来たら電話して確かめるんやけど、それもでけへん。ちょっと情けない気分。
仕方ないから酔い覚ましも兼ねて、コヒャンシュクタンで遅い朝食。トゥブチゲ。

15時にチェックインができるようなので、この時間に間に合うように出発。ソウルからフェリーが出るインチョン(仁川)の港までだいたい1時間程度。地下鉄がKR(韓国の国鉄)に乗り入れていて、シンチョンからは一回の乗換えでOK。
地下鉄の線路が地上に出ると、外は猛烈な風と雨。黒い雲の塊がどんどん滑るように流れて行く。いまさらながら、この「フェリーで中国に渡る」という計画を組んだことを悔やむ。

今回の旅行計画の目玉は、この仁川〜丹東(ダンドン)のフェリーに乗って、船で中国へ渡ること。このフェリーの存在を知ってから、乗ってみたくて仕方なかった。同じフェリーで中国へ行くにしても、上陸地が丹東というところがいいね。
丹東は中国と北朝鮮との国境の街。この機会に、「謎の国」北朝鮮の様子を垣間見ることが出来たり、市場で北朝鮮グッズが何か手に入れたり出来ればいいのになぁ、なんて思っていた。

終点のひとつ手前の駅が「インチョン国際フェリーターミナル」の最寄り駅。 「インチョン国際フェリーターミナル」という名前がかっこいいやんか。どれだけ立派な白亜のターミナルかと思いきや、土砂降りの中、タクシーで到着した場所は、薄汚い平屋の建物。これが「国際」フェリーターミナルか!
建物の中にはあふれんばかりに人が蠢いている。この人の多さを見れば「欠航せずに、就航しそうやな」とだいたいの見当がつく。

ここからは中国航路だけでも煙台・威海・青島・天津・上海そして今から乗る丹東と6航路。この日は丹東行きのみが就航する日のようだ。
それにしてもこの狭い「ターミナル」にいる人の多さは何や!しかも、すごい量の荷物。風呂敷に包んだ荷物なんかかわいくて、巨大な袋や、一人ではとても抱きかかえることができない大きさのダンボールなんかが無数に積み上げられている。それこそ足の踏み場もない状態だ。

まず、チェックインしなければ。丹東航路のチケット売り場はターミナル(?)の端っこにある。しかし、この窓口には何十人もの人がたかっている。
とてもじゃないがこの人たちを押しのけてチケットを購入するのは無理や。
一応、日本を発つ前にファックスで予約は入れてあるんだけど、大丈夫かな。
ターミナルに着いた瞬間から、しまったなぁ、やめといたらよかった、と後悔がつのる。しかもこの台風や、大人しく飛行機にしておけば良かった。後悔先に立たずとは良く言ったものですね。

時間の経過とともに窓口から人の数が減りだして、どうにかボクもカウンターの近くまで辿り着ける。ボクの手許にある日本のパスポートを目にした係員が窓口の中まで入ってくるように手振りで合図してくれた。「助かった」。
ファックスで送った予約はちゃんと届いている、台風の様子を見ながら出航する予定だ、チケットはカードではなく現金で購入してもらう、なんてことをお互いのたどたどしい英語を使って教えてもらう。
今回は奮発して1等船室を予約してあるので、料金は確か200,000ウォンぐらいだった。このときはまだ「ぜいたくかな」なんて思っていたけど、1等にして正解。

無事チェックインが済めば、次は出国検査。ターミナルの奥が検査場になっている。でも、まだゲートが開いていない。ここに着いてからすでに1時間以上が経過している。
正直言って、もうくたくた。
不思議に思うのは、こんなに風が強いのに潮の香りが全くしないこと。

このころから、風の強さや雲の厚さは変わらないものの、雨が散発的になってきた。台風の進路はソウルからだいぶ離れたのかな。

待つことしばし、ようやく出国審査が始まった。狭いゲートに人が殺到する。でも、待てよ。ターミナルの中にあれだけいた人の数がずいぶん減っている。
あの人たちは一体何だったんだろう。中国への輸出する物資をターミナルまで運んできたり、荷造りしたりする人だったのか?
出国審査を受ける人はさらに少なくて、見送りに来ていた人たちもここまでだ。
出国審査を終えると免税店。みんなタバコや洋酒をダンボールのケース単位で買っている。中国に持ち込む物資は全部免税なの?こんなに荷物を持っているのにまだ買うか!

免税店を通り抜けると、そこは岸壁ではなくバス乗り場。おんぼろのバスが2台待っている。このバスに乗り込むように促されて、乗り込む。満席になるのを待って出発。寂しい港の中を10分は走っただろうか、ようやく目指す岸壁に到着。この岸壁でボクを待っていたのは「東方明珠(オリエンタル・パール)号」。
名前はかっこいいけど、ただのぼろいフェリー。この船に乗るためにこんなに苦労したのか、と思うとちょっと情けない。でも、いよいよ船に乗るのかと思うと心も躍る(躍らんか)。