「小さな中国のお針子」

16/Apr./2003

  

シネマ・ドゥ二本目は「小さな中国のお針子」。
一度入替えがあってから再入場。しかし観客は10人もいなかったのはなんとも寂しい。

原題は「BALZAC ET PETITE TAILLEUSE CHINOISE」。この映画てっきり中国映画だと思ってましたが、一応フランス映画なんですね。監督はダイ・ルージュという人で、原作の小説「バルザックと小さなお針子」の著者。フランス在住の中国人で、青年時代に文化大革命によって自ら“下放”を経験している(チャン・イーモウ監督も10年近く下放させられたみたいです)。
僕はいったい“下放”とはなんなのか、はずかしながらこの映画を観るまで知らなかった。要するに、反革命分子の子供らを再教育と称して、山奥などの田舎へ送り込み肉体労働に従事させることなのです。

舞台は1971年、山深い村に下放された青年マー(リュウ・イエ、「山の郵便配達」の人)とルオ(チュン・コン)の二人が主人公。
村人は皆素朴で温かかったが、読み書きが出来ず、村長に従順。彼ら二人を待っていたのは、肥溜めを運ぶ畑仕事や鉱山のでの採掘など過酷な肉体労働。 そんなつらい日々を送っていたが、とある日。近くの村から年老いた仕立て屋と彼の美しい孫娘のお針子がやって来た。たちまち二人はお針子に恋をする...。

お針子を演じるのはジョウ・シュン、中国的美人。僕には初顔ですが「始皇帝暗殺」や「ふたりの人魚」に出ています。フルーツ・チャン監督の「ハリウッド・ホンコン」にも出演(日本では今年公開予定です)。また次回作は再びチュン・コンと共演する「恋愛中的宝貝」(日本公開未定)だそうです。
ちなみに“めがね”役を演じた青年は、なんと「プラットホーム」主演の人。このワン・ホンウェイは現在ガーデンシネマで上映されている「青の稲妻」にも登場しているようです(本業はプロデューサみたいですけどね)。

この映画、中国が舞台なのに中国映画らしくない。(そりゃフランス映画なので)それだけに筋がしっかりしていて観易いのだが、中国らしい臭さと言うかコテコテ感が無い。話しがスッキリしすぎてどうも不思議だ。
“下放”された青年が本をむさぼるように読むのも、当然といえば当然。もし僕が三年もあんなところで肉体労働に従事させられていたら、すっかり腑抜けになっているだろうな。
でもお針子があんなに小説に興味を持ち、自由を求めてか、ついには村を飛び出してしまうなんて、なんだか不自然(バルザックの小説を読んだことがないで、どうなのかわかりませんが)。
お針子は最終的に香港へ行ったと語られていますが、うーんどう考えたって田舎娘の彼女が、一人で都会に出て生きて行けるわけがない。どんな暮らしになっていったのか、想像がついてしまうだけに...。
しかし年を喰って中年に差し掛かった青年は再会し、昔を懐かしんでそんな感傷に浸るなんて、ある意味残酷ですね。

特に感動も無いまま終わってしまいました。
“下放”政策がいかなるものかと勉強にはなりましが、恋愛物語として観るべきではないかもしれませんね。
原作の小説はフランスで40万部を越えるベストセラーにもなり、世界30ヶ国で翻訳されたというのに、中国では今だ出版されてないというのも、やはり歴史の恥部にあたるからでしょうか。
日本も偉そうには言えませんけどね。

ではまた次回。