「ブラック・ダイヤモンド」

04/Apr./2003

  

映画を観てその映画をどう思うかは千差万別。
人が「これはいい!」と言う映画でも、実際に自分で観てみるとイマイチだったこともある。もちろん、その逆もあって、自分にとっては凄く面白いと思った映画でも、他人からはくだらないと言われるものもある。

当然だ、人それぞれ違うのだから。
だって、人間なんだもん。

とまあ、とりあえずここまで語っておきながら、いったい何が言いたいのか。
要するに、今回観た映画「ブラック・ダイヤモンド」についてなんです。

2003年アメリカ。主演はジェット・リーとDMX(ヒップホップで有名なカリスマミュージシャンらしい)。
黒人俳優と中国人俳優がコンビを組んだアクション映画。クリス・タッカーとジャッキー・チェンが主演した「ラッシュアワー」と同じような感じ。但し、あちらがジャッキーの映画らしくコメディタッチで描かれているのに対し、こちらはやっぱりジェット・リーの映画らしいシリアスタッチ。組んでいるDMXもナイスガイなアクション派の俳優だ。
しかし、この映画で不可解なのは、よくある刑事二人のコンビという設定では無いこと。ジェット・リーは台湾の秘密警察、DMXは強盗チームの一員という設定。普通ならば追う側、追われる側に別れる二人が、どうしてこの映画ではコンビを組むことになったのか?
そして当然タイトルにもある“ブラックダイヤモンド”がこの映画のキーになるのだけれど、その正体とは?

と、映画の題材は別にいい。
しかしこの映画、いったい何が何なのか? 
ちっとも面白くない。

DMXとジェット・リーの絡みが無い。
ダイヤを盗んだ強盗とそれを追う秘密警察。まったく対立する二人が出会うには出会う。しかしDMXは娘をダイヤを狙う犯罪組織(ボスはマーク・ダカスコス)に誘拐されてしまうし、肝心のダイヤは街を牛耳るギャングに奪われてしまうのだ。
こうなってしまっては、DMXにもう用は無い。誘拐された娘も、利用価値が無くなってしまうもんだ。DMXにとっては確かに不幸だが、もともとは彼自身が招いた種。おまけに彼は強盗だ、誰も同情しない。そこんところが、まったく不可解。
そして組むには組んだ二人だが、DMXはすでに強盗の仲間がいる。
彼らはダイヤを取り返す為ため、ただ勘を頼りにギャングのアジトに乗り込む。一方のジェット・リーは、ダイヤの行方を追ってまた別の場所へ向う。この二人は別行動をとっているのだ、こうなってしまっては絡みが無いのも当然。
おまけにジェット・リーの方は、ある闘技場で居並ぶ格闘家達と対戦することになってしまう。こ部分ストーリには全く関係が無くただのジェット・リーの格闘サービスシーンなのだ。

最終的に二人はまた、一緒になってダイヤを手にしたダカスコスも元へ向う。たった4人しかいない犯罪組織のボス、ダカスコスはこのダイヤを世界中の武器商人に売り込むオークションを開く。しかし、これが廃工場の中にパイプ椅子を並べただけの、実演販売会。そこに世界各地の闇の商人達が自家用のヘリに乗って集ってくるのだが、その数がまた10人もいない...。
もう何が何だかわけがわからん、話しに筋がなく、行き当たりばったりの展開だ。よくぞここまで手を抜いたような映画を撮ったものだ。
香港映画なら、脚本が無いといわれるだけあって、話は無くともアクションでグイグイ引っ張ってくれる作品もある。ところがこの映画はアクションも冴えない。いったい、あの「リーサルウエポン4」の悪役で強烈な印象を残したジェット・リーはどこへ行ったんだ?

ジェット・リーは、最強である。
だからこそ、最強VS最強(ジェット・リーVSジェット・リー)を演出した「ザ・ワン」は面白みがあった。ただ、あの映画は一人二役同士の格闘に技術的な限界があったように思える。しかしこの映画のジェット・リーは強いことは強いが、それは普通の人間に比べて強いということだけ。
同じ主演であるDMXよりも遙かに強いということであると、彼だけが際立ってしまう為、そうせざるを得ないというように観える、DMXはクリス・タッカーのようにトークで運べないからだ。
それがジェット・リーの足枷になってしまった、彼は単なるカンフーの達人刑事(おまけに無口)に終わったのだ。本作のジェット・リーの見せ場は、それこそ冒頭の、ビルの屋上から降りるシーンだけだ。クライマックスのダカスコスとの対決も、ちっとも興奮を得なかった。

本作の監督はバート・コウィアクという人で、またプロデュースはジョエル・シルバー。この2人で組んだ他の作品には、同じくジェット・リー主演の「ロミオ・マスト・ダイ」、またスティーブン・セガール主演(DMXも出演)「DENGEKI/電撃」がある。
要は皆繋がりなんですよね。ジェット・リーは「マトリックス」シリーズの続編(この映画のプロデュースもジョエル・シルバー)に出演依頼があったのにそれを断って、「ザ・ワン」の主演に集中したというのに、結局また今回の映画に出演している。本作が、ジェット・リーの代表といえる作品にはなり得ない。

映画は興行だ、売れて“ナンボ”の世界でもある。LAを舞台にし、有色人種のDMX、そしてジェット・リー...。地域をターゲットにした、企画された興行作品であるとはどこかで聞いた談。
しかし、ジェット・リーの一ファンとして、もっと彼は最強であってほしい(演技はそれほど求めていなかったりする...)。もっと彼が活かされた、良質の作品を願う。

以上、本日辛口でした、オワリ