幸福の幻影/浮生/Bliss

果たして「幸せとは何なのか」と考えてしまう



  

不思議な家族関係だが、お話しが進むうちに、徐々にボクにもその輪郭がわかってくる。
舞台は四川省から独立(?)した重慶(ちょんちん)。

ある家族の風景が、淡々としかし丁寧に描かれる。
最初はこの家の長男寄りの視線で描かれ始める。もうすでに成人して、結婚もし、独立した生活を営んでいる。何もない男のように見えるけれど、実はいろんな思いを胸に秘めて生きているのが後でわかる。
この長男、父親と向かうのは刑務所。ここにはずいぶん若い弟がいる。その弟が出所してきた晩。長男は実家での食事をパスしてしまう。部屋で鳴る電話に出ようとする奥さんに「電話に出なくていい」と告げる。
やがて、カメラは父親の家を描写し始める。そうか、そんな関係なのかと、少しずつわかり始める。そしてその焦点は刑務所から出てきた弟の日常に向けられ、彼のことやこの家庭のことをようやく理解し始めたとき、お話しは大きく動き始める...。

どこにでもありそうだけど、実はどこにもないのかもしれないある家庭のお話しなのだ。
親子でも、夫婦でも、所詮は独立した人間同士が同じ場所に住んでいるのに過ぎないのかもしれない。それが丁寧に暗示されるのだけど、実は、この映画が伝えたかったことはその逆なんだと思う。
どんな間柄でスタートするのかは実はあんまり大切なのではなく「この人が大切だ」と思い始めた瞬間から、新しい関係が始まるのかもしれない。(難しくて、上手く表現できないのだけれど)

長男夫婦の関係、弟と会社の同僚の娘との関係、そして父親と死んでしまった母親との関係...。

都会風であり、下町風であり、そしてどこか浮世離れしたロープウェイのゴンドラで、決して美しいとは云えない現代の重慶の風景を借りてお話しは語られる。
大きな心の機微がセンセーショナルに描かれるのではない。あくまでも、日常の延長に垣間見える非日常がさりげなく描かれて、ふと思い当たるフシに出会い、ボクははっとさせられる。

結局、人生なんて何が正解なのか、そんなことは最後までわからない。若さゆえの激情に流されての行動だって、年老いてから後悔するのなら、軽軽しくそれを批判できない。
人生において、正解や答えはない。そんなことを改めて思い出させてくれる作品。

観て楽しいわけでもない。ある程度中年の域に達して、自分の人生を振り返るのに慣れた人向きかもしれませんね。

これで福岡アジア映画祭のレポートは終了。全部で6作拝見させていただきました、ありがとうございました。
4年前、5年前のような異常な活気はありませんでしたが、上手くセレクトされた作品をご紹介いただき、福岡まで出かけて行ったかいはありました。次回はいつお邪魔できるのかわかりませんが、これからも頑張って続けていただきたいものです。

再見!