世界最速のインディアン

“思い”は、ある意味岩をも溶かす



  

純朴な思いを貫き通すと、そこには賛同者も現れ、影に日向になりながら援助の手が差し伸べられるものだ。でも、自らの手で走り続ける動機や強い信念がないと駄目だ。皆は助けてはくれるけれど、原動力そのものは、あくまでも本人自らのものなのだ。

ニュージーランドにいるはた迷惑なおっさんバート・マンロー(アンソニー・ホプキンス)。
仕事からはリタイアしている悠々自適の生活(まぁ、そうでもなさそうだけど)。そんな独り暮らしのおっさんが、そんな年齢になっても必死になって取り組んでいるのが、自宅兼用のガレージに鎮座する一台の古い単車“インディアン号”のチューニング。スペックが最高であるこの流線型のカウリングに覆われたこの単車に最高のパフォーマンスを演じさせたい、そのことにバートは没頭しているのだ。

このインディアン号に世界新記録を作らせてやりたい。
そう考えたバートは、雑誌か何かの記事で知った、地球上で最もタイムが出やすいといわれている、アメリカ・ユタ州ボンヌヴィルにあるという塩で覆われた湖(?)で行われる記録会へ参加することを決意する。

しかし、何事も念じて、一生懸命になって取組めば“叶わない夢はない”んやなぁ...。
一寸間違えば、単なる妄想家に過ぎないのかもしれないけど、バートが一つひとつ難問をクリアしていく姿は、単純に胸を打たれる。
ボンヌヴィルで記録会に参加しようが、そこで世界最速のスピードを記録しようが、そんなことは言ってみれば“自己満足”にしか過ぎないのは分かっている。それでも、この純粋で呑気なおっさんに肩入れしたくなるのだから、やっぱり“思い”は大切だ。損得勘定を抜きにして、純粋であればあるほど“思い”は人を動かす力を持っているものなんだなぁ...。

アンソニー・ホプキンスが好演というか“怪演”。
この人をキャスティングしたことだけで、この映画の説得力は10倍増し。
観ているボクも、記録がどうのこうのではなく、ただ純粋に「この人とインディアン号にボンヌヴィルで走らせてあげたい」と深く思ってしまうのだから。

何かにブチ当たって砕けそうになっている人。モチベーションが下がって挫けそうになっている人にお勧めの作品ですね。観れば必ず勇気が湧いてきます。
「人生、まだまだ捨てたもんじゃない」そんな気になせてくれる秀作です。(しかし、おっさんの割りにバートが何故かもてもてなのは、やっぱりアンソニー・ホプキンスだからなのかな?)

おしまい。