許されざるもの

誰が悪いわけではなく...



  

軍隊だけが特異なのではなく、閉鎖された集団生活であれば必ず起こりうる事柄を描いているのだろう。完全に隔離され閉鎖状態で、しかも何十年も連綿と続いている。でも、誰もが26ヶ月が過ぎれば解放されるという、なんとも不思議な空間。
今まで、戦争や軍隊生活をテーマに描かれた韓国の映画を何本か拝見してきたけれど、そのどれもが“あの時は良かった”とか“どこか懐かしい”という雰囲気が色濃かった。喉元を過ぎてしまえば、都合の良いことだけしか覚えていなくて、不思議な空間で送った軍隊生活も美化されてしまう。
唯一シビアな内容だったと思っていた「DMZ 非武装地帯 追憶の三十八度線」でさえ、この「許されざるもの」に較べると、ある意味甘い部分があったように思えるから不思議。いや「許されざるもの」には戦場や戦闘が全くないだけに、余計に無意味な閉鎖空間が強調されてしまうのかもしれない。
ちなみに「DMZ 非武装地帯 追憶の三十八度線」では兵長役のパクコニョンが良かった。そしてこの「許されざるもの」でも兵長を演じるハジョンウがいい(キムギドクの「絶対の愛」で主役に抜擢されています)。

もちろん、ボクは軍隊生活は送っていない。似たようなところがあるかもしれない体育会生活は経験したけれど、それは幾らでも逃げ道が用意されている。24時間どっぷりと嵌って過ごす軍隊生活は大変だろうな。
年齢や世間での立場などは関係なく、早く入隊した者が偉く、下のものは絶対服従。命令に対してはその正当性や妥当性などは問わない、関係ない。外での常識が通用しない世界。
経験したことがないボクが書いても説得力は無いけれど、兵役義務の26ヶ月を一体どのような心構えで過ごすのかによって、その期間は全く変わってくるのに違いない。
とにかく自分が傷付かないように要領をかましながら過ごすのか、それとも生真面目に理想論で衝突を繰り返しながら傷ついて過ごすのか...。また、軍隊という組織は兵にどのような過ごし方を良しとしているのか...。
とにかく、どうやって26ヶ月を過ごして除隊していくのか。それは本人次第のようでありながら、実は大河を流れて行く木の葉のようなもので、大勢には逆らえない流れに乗って川を下って行くだけなのかもしれない。流れに乗ることが、本人にとっても軍隊にとっても好都合なのだから...。

テジョン(ハジョンウ)はもうすぐ除隊を控えた兵長。ある日、自分の部下に配属された新兵スンヨン(ソジョンウォン)が中学時代の同級生だと気付き、何かと面倒を見てやる。しかし、一流大学の学生であるスンヨンは軍隊の生活には馴染めず、軍隊特有のルールに反抗し、波風ばかりを立てていた...。
そして、テジョンは除隊、スンヨンも自分の下に新兵ジフン(ユンジョンビン)が配属される。何をさせてもどんくさいジフンをスンヨンは庇うが、そうこうするうちにスンヨンの立場が悪くなり...。
そんなある日、休暇でソウルに立ち寄ったスンヨンはテジョンに電話を掛け、飲む約束をするのだが...。

兵役経験を経た人は、その大小はあるにせよ心に大きな傷を負っているのに違いない。
でも、人間は上手いこと出来ていて「忘れ去る動物」なのだ。どんな傷だって、不条理だって、除隊して自由な外界に解き放たれた瞬間に忘れてしまう。それはそうだ、除隊とは軍隊生活とは全く違った価値観と身分や階級で放り出されてしまうことなのだ。そういつまでも軍隊生活の名残を惜しんでばかりもいられないのも事実だろう。

同じような共通体験を積んだ男が一つの社会を形成する国とは、ある意味凄いことだなと思う。
「男だったらわかるだろ」そんな言葉の意味が、韓国と日本では明らかに違うんだろうなぁ...。
必見ではないと思うけれど、韓国の社会に深い興味をお持ちの方はご覧になってもいいと思います。

おしまい。