絶対の愛

あれ、あれ!?



  

鬼才キムギドク監督の新作。
しかし、観終わった後に余韻が感じられなかったのはボクだけだろうか?
その理由は、今回のテーマにボク自身がまるで同化出来なかったからではないか。すなわち、自らの容貌を変えてしまうという整形手術そのものがボクの理解の範疇を大きく超えている。今までのキムギドク監督のテーマは確かに異常だけれど、人間の深層心理に潜む何かをあぶりだしていて、自分ではもちろん出来ないけれど、どこか理解できる部分があった(ような気がする)。
でも、このお話しのスタートラインである、恋人の心が自分から離れていってしまったのは、自分の容姿に“飽きてしまった”からだ、という心情は全く理解できなかったし、それでは変身して(整形手術を受けて)もう一度愛してもらおうという発想にも全くついて行けなかった。
愛とか恋とか、スタートラインはもちろん、誰だって外見から入るわけだけど、外見や容姿はあくまでも入口にしか過ぎない(と思う)。一瞬の逢瀬であれば外見が全て。でも今回語られているのは一瞬ではなく、もっともっと長いタームでの恋愛であり、結婚という契約(!)を前提としたものであっても不思議ではなかったはず。

導入ももう一つ理解できなかった。喫茶店で待ち合わせをしているカップル。男が先にお店に来ていて、彼女を待つ間にお店の若い女のに気を奪われていたり、店の前に停めたクルマに軽く当てた女性の運転手に色目を使ったと言っては、目尻を吊り上げて怒り狂う。
これってどう考えてもパラノイアとしか思えない。そんなありふれた男の視線にいちいち反応していたら、それこそ身も心ももたない。それがどうして、自分の容貌に愛想を尽かしたんだと取ってしまうのか? それも、彼女がそう思っているという感情の吐露がないままだから、正直言って彼女が美容整形の医師を訪ねて行く理由がさっぱりわからない。これが、日本語字幕がある状態でそうだから、もしソウルで観ていたらもっとわからなくて、きっと頭の中に100個くらい「?」が点滅していただろうな。
それに較べて、男の方は実にわかりやすい。いい奴なんだよ。突然目の前から姿を消してしまった彼女のことをじっと待っている。なかなかこんな奴はいないと思うな。

キムギドク監督は、男女という性差に関係なく機微を描くのには長けていると思っていたけど、今回ばかりは...。

お話しの筋には関係ないけど、繰り返し出てくる喫茶店。なかなか感じがいいお店なんだけど、普通、ここまでトラブルを起こすお客は出入り禁止になるよなぁ。それよりも、恥ずかしくってもう一度来ようとは思わんわな...。
二度目だったかに出てくるかわいい従業員の女の子。どこかで観た気がするなぁ、「サマリア」の早くに死んでしまう方の子だったかな、なんて思っていたけど、そうそう「まぶしい一日」の「宝島」に出ていた杉野希妃(ソヨンファ)でした。違和感もなかったしかわいかったなぁ...。
他には主演の男性に「許されざるもの」の兵長ハジョンウが、頼りなく好演しています。医者もどこかで観たことがあるような...。

キムギドク・ファンの方なら逃せない一作であることは確かですが、そうでない方にとってはムリしてまで観ることはないのかもしれません。

おしまい。