ココシリ

人間の欲深さが胸に突き刺さる



  

夏休みに入って、しっかり計画を立てて観ないとどんどんボクの目の前を新作映画が通り過ぎていく(まぁ、夏休みじゃなくてもそうなんだけど)。

もうずっと前のことだけど、冬に中国へお邪魔すると、カシミヤのカーディガンやセーターをよくお土産に買ってきた。すると、土産屋のオヤジが「カシミヤはインド式の呼び方で、中国では●●と呼ぶのだ」と教えてくれた(●●が何だったかは忘れてしまったけど)。
その●●が、まさかチベットカモシカやシャトゥーシュでなかったことを祈るのみ。

しかし、スクリーンに映し出される自然は圧倒的な迫力。こんな自然を前にすると、人間の存在なんてちっぽけなものだと思ってしまうけれど、実はそうではない。百万頭単位でいたというチベットカモシカ。その毛の商品価値の高さから今では数万頭しか生息していないという。人間とは欲深く、執念深いものなんだなぁ。

密猟者たちが欲に目がくらんでチベットカモシカを追い立てるのは理解できる。しかし、隊長以下が密猟者たちの摘発に生命を賭けるのかが理解出来なかった(説明不足だった)ように思う。ひょっとして、宗教上の理由や独立運動でも絡んでいるのだろうか? 自然保護という崇高な目的だけだとは、とても思えなかったのだけれど...。
ただ、彼らも生身の人間として描かれている。徴収した罰金をそのまま医療費として使ったり、押収した毛皮を業者に売り渡したり...。決してキレイ事だけを描いていないのは好感が持てる。

ストーリーを追うのも大切だけど、この映画の持ち味は青海省の自然そのもの。圧倒的な自然を前にして、その自然に立ち向かう人間は愚かな存在なのだと知らせてくれる。
取り締まるために、街道の要所で何年も一人で生活する隊員。彼は何日も話しをすることもなくテントで生活しているのだ。ほんの少しの気の緩みで、毎日の整備を怠り、クルマが途中で動かなくなること。すなわちそれは砂漠の中では“死”を意味する。地吹雪に吹雪、自然はちっとも優しくなんかない。簡単に牙を剥き、そこに人間がいた痕跡なんてあっという間に飲み込んでしまう。
砂地にタイヤが取られてクルマが動かなくなる。車外に出て、荷物を降ろそうとしたその刹那...。

結局、どのような経緯でこの組織が存在し、何を持って活動を継続していたのか。それはわからない。そして、隊長が命を賭けて、寸前まで追い詰めた密猟者が誰だったのかもわからない。ましてや、北京からやってきた記者が、それこそ生死の境界線を縫うようにして走る取締り用のクルマに同乗させてもらえた理由もわからない。
「このような方々の活躍で、チベットの希少生物が守られている」という感想は持たなかった。そうではなく、中国においての命の軽さ、人間の欲の深さ、そして自然の大きさが胸に突き刺さる。

是非大きなスクリーンでご覧いただきたいのですが、残念ながらとうの昔に上映は終了しています。ひょっとしたらどこかでリバイバル上映の可能性もありますので、そんなチャンスに恵まれた場合は、お観逃しなきように!

この夏、チベットのラサまで鉄道が開通。世界一高い場所を走る鉄道。乗ったら乗ったで、何時間走っても変わらない風景にあきてしまうかもしれないけど、チベットの一端をのぞき見るにはいいかもしれない。何とかチャンスを掴んで一度乗ってみたいもの。

おしまい。