青いうた のど自慢 青春編

あれも青春、これも青春



  

ノドの奥に何か大きなものがひっかかったような、なんとももどかしい後味が残るお話し。
少し前、書店さんの店頭でみかけさらっと斜めに立ち読みしたのが「他人を見下す若者たち〜「自分以外はバカ」の時代」(講談社現代新書 速水敏彦 ISBN:4061498274)という本。その帯には“いつか大きいことをしてやる”とつぶやく若者のイラストが添えてある。その若者のつぶやきには全く根拠もなければ、そのための努力もビジョンも無いのだという。買ってまで読もうとは思わなかったけれど、確かに最近の若い人にはそんな傾向があるのかもしれない。
映画を観終わって、この本のことをふと思い出した。

舞台は青森県の下北。
恐山に続く、釜臥山が見下ろしいる街はむつ市の大湊。ここの中学校に通う4人の若者の姿が描かれている。中でも、何かの事件を起こし、少年院に行っていたので学年をダブっている少年・達也(濱田岳)が物語りの中心になっている。達也の弟・良太(冨浦智嗣)、同級生で美容師を目指す恵梨香(寺島咲)、東京の進学校へ進む俊介(落合扶樹)がエピソードを紡ぐ。
達也が歩む青春は悲惨で、ある意味凄惨でもある。これが20才やそれくらいならまだ耐えられるかもしれないが、16や17才の若さではとてもじゃないけど耐えられないだろう。
しかし、東京という場所はそんな若い人間を呑込んでしまう。どんな年でも関係ない。底辺であろうと上流であろうと、いろんな人間をいろんな欲望や考えを許容してしまう。

映画を観ながら思い出していたのは「疾走」(角川文庫 上下巻 重松清 ISBN:404364602X)だ。何の資格も能力も無い、訳ありであろうが、年齢が幾つだろうが、手っ取り早く出来る仕事は新聞配達なのか。小説は読んだけれど映画は観ていない(観ておけばよかった...残念)。
下北を飛び出した達也は東京で蠢きながら、転々としながら新聞配達の職を得る。
そして、達也は何の根拠も無く信じていた自分と向き合うことになる。

この作品を井筒監督の「のど自慢」の続編や姉妹編と位置付けるのには、ちびっと無理がある。確か「のど自慢」には「あこがれのハワイ航路」という続編があったように思うけど...(残念ながらボクは未見)。
この「青いうた」は、室井滋扮する赤城麗子が顔を出している以外に前作との関連性は全くなく、むしろ独立した作品として扱った方が良かったのでは?
NHKの凄いところは、日本中で同じ番組を見られるところだろう、のど自慢に限定すればラジオでも同時にオンエアされている(ボクはよくラジオで聴いています)。だから、達也は東京に居ながらにして大湊からの中継をラーメン屋で見ることができる。出演者と視聴者として同じ時間を共有できる。
だけど、何故のど自慢なのか、良太がそこまでのど自慢にこだわるのか、その理由付けが少々弱いと思う。

達也はリアルなようでリアルではないけれど、こういうこともあるかもしれないと思う。でも、恵梨香はどうだろう。こんなことを言うと叱られてしまうかもしれないけど、今どき彼女のような純な女の子がいるのだろうか?

語られるお話しはさておき、ラスト付近で斉藤由貴が歌う「木綿のハンカチーフ」。良かった。涙を誘わずにはいられない。こうやってナツメロに分類されるであろう曲をリアルタイムで知る歳になったんやなぁ。それに恵梨香のお母さんが斉藤由貴だとは最後にクレジットを見るまで気付かなかった。う〜む。
主役の4人はいずれも芸達者。特に寺島咲はかわいくていいです。若き日の宮澤りえを彷彿させるルックスです。彼女は大林監督の「理由」でデビューしてたのか! やっぱり気になる映画はちゃんと観ないとあかんな。またヤクザの兄貴分を演じているお兄さんは豊原功補、どこかで観た顔だと思ったら「突入せよ!浅間山荘」で機動隊の隊長をしてました。
教授と達也の祖母のエピソードは...蛇足かな?

いつか青森にお邪魔する機会があれば、釜臥山(かまふせやま879m)は歩いてみたいなぁ...。

おしまい。