歓びを歌にのせて

歓びや楽しみとは何なのかを教えてくれる



  

もう観逃してしまったかと観念していても、じっと我慢していればこうして出会えることもあるんやなぁ。
「歓びを歌にのせて」神戸は湊川(新開地)にあるパルシネマで上映してくれました。このパルシネマは今後も何作品かお世話になる予定。土曜の昼下がりということもあって、半分ほどの入りでした。

スウェーデンはもちろん行ったことがないし、きっと今後も行くことはないだろうな。
ここの寒村で育った少年。世界的なオーケストラの指揮者となる。様々な契約を結び、向こう3年間はスケジュールがびっしり。そんな脂が乗り切ったところで、ある晩の演奏会でステージから下がるところで血を吐き倒れてしまう。彼のキャリアも振り出しに戻ってしまう。
心臓の病気だと診断されたダニエル・ダレウス(ミカエル・ニュクビスト)は、かつて幼少時代をすごし、いじめにあったという忌まわしい記憶に彩られた寒村へ向かう。廃校となった村の学校を買い取り、ここで暮らしていく決意をしていた。ここで何かしたいという意志や目的はなく、ただただ静かにこの冬を過ごしたかったのだが...。

歌声は象徴にしか過ぎない。閉鎖された村に新しい風が吹き、その風が巻き起こすざわめきや軋轢。精神的なものもあれば、フィジカル的なものもある。新しい風に当って動き出そうとする村人たちもいれば、その風に抗う人もいる。
教会の聖歌隊のコーラス。その聖歌隊の面倒を見るようになったダレウスを中心として、彼が関わる様々な村人の様子が、必要な分だけ上手に切り取られ、丁寧に語られる。
雑貨屋のレジで働くレナ、ダレウスの同級生でいじめっ子と結婚し二人の子供がいるガブリエラ、村の教会の牧師とその妻...。この3人を中心にして、唄うことの素晴らしさはもちろん、それ以外に各人が抱えるさまざな事情があぶりだされる。

そうだ。人間は生きて行くだけで実にさまざまな問題と対面している。ボクだって仕事をしているだけでも、映画を観ているだけではない、もちろん。
いろんな事情を抱えて、いろんな問題を抱えて、解決しながら生きている、もちろんほったらかしや見えない聞こえない振りをしている問題もたくさんあるけどね。

ダレウスは決して聖人君子でもない、ストイックでもない。極めて人間臭い存在として描かれる。
そこに親近感が湧き、まるで自分のことかのように彼と一緒に悩み行動することが出来る。楽しみ、笑い、そして喜べるのだ。
そして、人間はいろんな考え方や行動を取るんだな。この映画は、何が正しくて何が悪いとか、勝つのはどっちかなどには触れない。そうではなく、人間としての歓びや楽しみは一体何なのかをそっと教えてくれるだけ。

ボクもコーラスや音楽をしても良かったかな、なんてちょっと嫉妬してしまう。
エンディングを迎えて、哀しい気分ではなく、なんだか心が高楊していた。

でっかいスクリーンでご覧になるのが一番ですが、既にDVDも発売されているようです。ご覧になっても損はない作品だと思います。

おしまい。