ワンナイト・イン・モンコック

旺角に朝は似合わない



  

このところ韓国映画の攻勢の前にすっかり影を薄くしていた香港の映画。しかし、中華圏の映画も少し息を吹き返してきたかな。
京都のみなみ会館。レイトショー。帰りのことを考えると不安なのでクルマで出かけました。

ダニエル・ウーは、今まで割りとしょうむない役が多かったけど、今回はちょっと違う。どんどんいい役者さんになっていくような気がします。どこか哀しげで寂しそうな顔が、意外と似合っている。セシリア・チャンもいいなぁ。
他の出演者はアレックス・フォン、ラム・シューなど多彩な顔ぶれ。前半にもったいない役でサム・リーも顔を出しています。

この映画は凄いと思った。
そこで起こったことを淡々とフィルムで映すだけでは、それは映画とは言えない。
フー(ダニエル・ウー)とタンタン(セシリア・チャン)の目を通して、中国だけど中国ではない香港。その雑踏の中で働く大陸から来た者たちの悲哀が、思いが伝わってくる。思いを伝える、葛藤を伝えることが映画では大切なんだな。
ちょっとエピソードを盛り込み過ぎとも思えるけれど、わずか2時間弱の映画の中に葛藤が描かれている。
世の中、金だけではない。金だけではないけれど、お金は強い力を持っている。そんなことを言葉で言っても、それは物事の表面をなぜているだけ。その強い金を求めて大陸から香港へ来ているのだから。しかし、人間は哀しい生き物で、その金のために、生命や自尊心までを何故か投げ打ってしまう。

クリスマスの前夜。うるさいクラブで繰り広げられる何気ない抗争。その夜が何も特別な夜であったわけではない。いつものありふれた光景のひとコマに過ぎなかったはずだ。
それなのに、若気の至りか、ちょっとした行きがかりが暴走してしまう。その挙句、チンピラのような青年が高架道路で炎に包まれて死んでしまう。助手席に座っていたクラブの女性は全身に火傷を負い病院に担ぎ込まれる。
死んだ若者が普通の人であれば、単なる交通事故で終わっていただろうに、この若者は黒社会の首領の息子であり、クラブで暴走したもう片方が、対立する首領の子分だったから、話しはエスカレートしていく。息子を殺された首領は怒り狂い対立する首領を暗殺するためのヒットマンを大陸から呼び寄せる。
フーと偶然出遭った娼婦のタンタンは、打算と疎外感(同情?)が入り混じった不思議な感情を共有しながら朝が来ない旺角(モンコック)の夜を一緒に過ごす。フーはどうして自分が今ここにいるのか、その理由を探すために。タンタンは何となく、でも自分が大陸の故郷へ帰る踏ん切りを付けるためにだったのか。
そして、旺角一体を警備する警察は、クリスマスイヴの夜を徹して、ヒットマンの捜索と対立する首領同士の抗争の沈静化を警察のそして自分の面子をかけて取り締まる。

思惑が交錯する。事実も交錯する。
そして事態は思わぬ方向へ動き始める。

フーは新聞の記事に目を留める。
タレコミを元にして踏み込んだホテルの一室。若い刑事が勇み足の誤射でその部屋にいた男を射殺してしまう。
フーとタンタンが偶然出会うきっかけを作った男が戻って来る。

誰にも予想できなかった展開に、息をすることさえ忘れてしまう。

ようやく白みががってきた旺角の街並。
そこにもう必要はなかったのに、銃声が響く。そしてお話しは収束していく。旺角には朝は似合わないかのように。 物語りはハッピーエンドでは終わらない。

このところ観た香港の作品の中でも、間違いなく抜きん出た存在感を示す。
ボクにとっては香港で一番好きで多くの時間を過ごした旺角の街並みが嬉しいことも大きい。でも、そんなことを抜きにしても素晴らしい作品。観終わって決して楽しい気分になったりスカッとしたりする映画ではないけれど、じわっと哀しい思いが込み上げてくるような作品です。
上映はもうとうの昔に終わってしまったけれど、チャンスがあれば是非。チャンスがなければ、ビデオかDVDでお楽しみいただけるのではないでしょうか。

おしまい。