大韓民国憲法第1条

十字固めとは、いったいどんな技なのかなぁ?



  

着想がいい。

正直云って、コメディ色が強いこの映画を観ていて、涙がこぼれそうになるのを必死になってこらえるなんて、考えもしなかった。
ラスト近く、ウンビ(イェジウォン)はもう立候補を取りやめようと決心していた。これだけ多くの人に迷惑をかけ、勝てる見込みがない選挙戦を闘う意味がもうどこにも見出せなかったから。最後の公開討論会(演説会)の席上で、マイクに向かってそう叫ぼうとした瞬間。
派手なピンク色のスーツを着て、風船を片手にした多くの人たちの先頭に立って現れるマネージャー(アンネサン)の姿を目にしたボクは、その予想外の登場に、思わず目頭が熱くなってしまったのだ。

このお話しは実話ベースだったのだろうか? それとも完全なフィクションなのか?
ひょっとしたら、あるお話しなのかもしれないし、考えてみたらあるわけがないよね。でも、でも...。

風俗嬢が、真っ向勝負、国会議員の補欠選挙に立候補し、その選挙戦を描いている。
与党の政党から立候補するプロの政治家。国会議員の肩書きが欲しくてたまらないヤクザの親分、そして日本風に言えば“諸派”オヤジ、この3人が対立候補。マスコミは組織も資金も豊富な二人の事実上の一騎打ちだと分析している。それぞれ選挙のプロが参謀に付き、科学的に(時には泥臭く?)選挙戦に向かう。

ボクはもちろん韓国の選挙権はないし、投票へ行ったこともないけれど、何度かソウル市内での選挙運動を目撃している。日本と最も大きな違いは、投票の際、有権者は候補者の氏名を投票用紙に記入するのではないこと。立候補の際に各候補に割り振られた数字を記入してもらうのだ。だから選挙戦は立候補者の氏名を連呼するのではなく、自分の番号を連呼することになる。
最初は全くこの投票システム(?)が理解出来ず、この選挙運動を異質な眼で見ていたボクは、それこそ「けったいな選挙運動やな」と思っていたものです...。

全く素人の風俗嬢が国会議員に立候補する。選挙運動を通じて様々な軋轢が生じるのは当然のことかもしれない。その辺が、日本のへなちょこマドンナブームに乗った女性立候補者とは違う。コメディタッチでありながら、茶化したり逃げたりせず割と正面から描いている。そこが凄い。
日本でも、もちろんきっと韓国でもそうなんだろうけれど、売春婦という職業は公式には存在しない。存在しない職業を名乗って立候補することは有得ないのだろうけれど、韓国ではそれもありみたい。

映画のタイトルにもなっている“韓国憲法第一条”は国民主権を謳っている、しかし、政治の実情はどうなのか?
そう考えると、この映画のメッセージは、職業としての政治家への痛烈なメッセージ。
ウンビがこの後どんなふうに変わっていったのかも知りたいような気がするけど、それはそれで“蛇足”というものでしょうか?
政治に興味があろうがなかろうが、最初は突き放して観てしまうけど、どんどん身を乗り出して引き込まれてしまう、そんな一風変わった魅力があるのは確かです。

いつもは悪い人役でもどこか憎めない人間を演じるイムンシク、珍しくちょっと嫌味な役で出ています(これはちょっとネタバレかな?)。
主演のウンビを演じるイェジウォン、「生活の発見/気まぐれな唇」では、そんなにいいなとは思わなかったけれど、いいです。はい。
この作品をセレクトして、日本語字幕付きで上映してくださったソチョンさんには感謝、感謝。
朝一での上映というせいもあったでしょうが、ナナゲイは空席も目立っていました。でも本当は一人でも多くの方にこの作品をご覧いただきたかったような気がします。
今後、日本での上映があるかどうかは不明ですし、ビデオやDVD化されるかも不明です。

おしまい。