マイ・ブラザー

何かが足りないような...



  

ほんの少し前のこと、韓国映画の上映時に「満席で入れないのかも」と心配だったのは、ウォンビンが出演する作品ぐらいのものだった。それが今では...。
全く誰がお客さんを呼ぶのか、TVドラマをほとんど見ないボクには事前に予想するのは難しい。まぁ、ヨン様ぐらいはボクにもわかりますけどね。「四月の雪」はどんな規模で公開されどれほど入るのでしょうね。それは、ちょっと楽しみです。

そのウォンビンが軍隊に入隊前に撮った作品(その割には、その後入隊したという話しは聞かないな)。
ウォンビンとシンハギュンがちょっと苦しい高校生を演じています。
この映画は悪くない。ラスト付近のお話しの展開は「わかっちゃいるけど、泣ける」ものであるのも確か。でも、この作品が“名作”としての評価を受けないのには、何か理由があるのも確かだと思った。

ソウルから離れた地方。その街にある兄弟がいる。
一つ年上の兄貴(シンハギュン)は身体が弱く、学年を一年遅れている。だから弟(ウォンビン)と同じ学年で、同じ高校そして何故か同じクラスに通っている。身体が弱く、まじめで繊細、しかし勉強が出来る兄と、勉強は全然駄目だけど、腕っ節が強くて、スポーツや喧嘩ならお任せ、しかもルックスが良い弟。そんな、何事にも正反対な兄弟。
母親は、病弱だった兄ばかりを溺愛し、丈夫な弟は放りっぱなし(それでも、弟は逞しい)。挙句に、持たせる弁当のおかずにまで差を付けられている。それでも、弟はどこか納得しているし、でもどこか納得できない。兄弟でどうしてこうも差を付けられるのかと。

この兄弟の高校時代と卒業して半年後ぐらいまでに焦点を当てこのお話しは語られる。
生活とは、ドラマチックではなく何気ない日々の出来事の積み重ねなんだなぁ。
ある日、バスに乗り合わせた少女に心をときめかす。内気な兄貴は声も掛けられず、そっとその横顔を盗み見するだけ。家に帰ると、彼女のことを思い出しては、その美しい笑顔をノートに描く。その横には、決して口に出しては言えない彼女への思いを詩にして添える。
一方、同じ女子高生を気に入った弟は、果敢にアタックをし、彼女が創作部に入っていると知るや、何の文才もないのに入部し、兄貴のノートを引きちぎって、彼女に送る恋文を堂々と読み上げる。そして、その結果は...。
そんなエピソードが積み上げられう中、二人で学校の藤棚の上に寝転がって青空に浮かぶ雲を見上げるシーンは印象に残る。誰にでも、いつまでも人生の一場面として記憶に残る光景があるとすれば、きっとこのとき弟と(兄と)一緒に空を眺めた藤棚のことなんだろうな。
「賢兄愚弟」なのか。でも、そんなに簡単に割り切れるものではないし、評価を決めてはいけない。兄弟とはそんなものだ。誰かを評価しようとするときに用いる物差しは一つだけではないはずだし、一つの方向だけで決めてもいけない。弟は、ちょっと表現が上手くないだけで、母や兄を思う気持ちは誰にも負けてはいない(と思う)。

悲しいけれど、お話しは暗転する。一つの失敗(母親の投機?)を取り戻そうとして、もがけばもがくほど深みに嵌ってしまい、それが意外な形で悲劇につながってしまう。
母親の誕生日に兄から届けられた花束が、悲しく、涙を誘う。

でも、実際ボクの頬は濡れなかった。
結局、上手く表現できないのだけれど、この映画には何かが足りないと思えた。それが何かがわからないけれど...。
シンハギュンもウォンビンも上手い芝居はしている。お母さんもマドンナ(?)、学校のライバル番長も、居酒屋を始める同級生もやくざ風の兄貴も、みんな悪くはないのだけど、どうもな。予定調和のうちに全てが進んでしまい、ボクの涙腺を刺激するには至らなかったわけか。
ボクはこのところ続けてシンハギュンを観たんだけれど、もう少し明るくて軽い役はまわってこないのだろうか? いつもどこか影がある、そして陰にこもったような青年ばかり。「ガン・アンド・トークス」のようにギャグマンのような役が彼にはもっとも似合っているような気がするんだけどなぁ...。この後も、彼の作品は何本か待っているようですから、楽しみです(今、韓国で公開中の『ウェルカム・トゥ・トンマクゴル』は、凄い人気のようですね)!
ウォンビンは「テグッキ」に引き続き今回も弟役。兄として若い役者を引っ張っていけるように、幅を広げて軍隊から帰ってきてほしいものです。

おしまい。