我が家の犬は世界一 

中国北京の、普通の家庭の普通の生活



  

大陸の作品を観るのは久し振りのような気がする。
「う〜ん」と調べてみると、そんなことないか。今年に入ってからテアトルで「故郷の香り」を観ていたな。「故郷の〜」は田園を舞台にした、現代劇でありながらある意味時代劇のようなお話しだった。この「我が家の〜」のような現代の都会に住む市井の庶民を主人公にした作品が久し振りなんだな。
きっといいお話しも沢山撮られているのでしょうが、日本にはなかなか紹介されないのでしょう。これも“韓激流”の余波なんでしょうか。
それにしても驚いたのが、主人公の息子である中学生の机に上にあるラジカセから流れている曲が、韓国のアイドル・グループ「神話・SHINWHA」の曲だったこと。そうか、北京でもこんな身近に“韓流”が...。そういえば「北京ヴァイオリン」でも子供が大切にしているプロマイドはキムヒソンだったしなぁ。

それはさておき、何とも肩の凝らないお話し。ある意味締まりが無い。
目を見張ったのが、主役が「活きる」で鮮烈な印象を残し「ハッピー・フューネラル」などにも出ていたグォヨウ(葛優)、そして警官役にはありゃお久し振りねのシィアユイ(夏雨)。彼は「太陽の少年」ではまだ子供だったのに、すっかり大きくなって...。大陸の作品は、知った顔の役者さんがひょっこり顔を出してくれることが多いですね。

ボクが最後に北京へお邪魔したのが2001年の暮れだったから、もう3年半ほど前になる。その時に目にした光景で忘れられないのが、寒い朝、市場へ向かう道すがら、愛玩用の小型犬を散歩させている人とすれ違ったこと。
それまで、北京や上海など中国の都市へは何度か行ったことがあったけれど、そこで見かけたのは、番犬的な犬や、痩せてウロウロしている中型犬。愛玩用の室内犬を見たのは、本当に初めてだっただけに、目が点になった。「中国も変わったな」と思った。
そんな北京の犬事情を通じて、この街に住む家族の人間模様を描いた“悲・喜劇”。

鉄工所(?)に勤めるラオ。団地に妻と息子、三人家族で住んでいる。だけど、この家族あんまり上手くいっていないのが、なんとなく明らかになる。その語り口が鮮やかで憎い。
息子は、朝、お気に入りのダブダブズボンを履こうとしてビックリした。裾が切られている。オヤジが勝手に切ってしまったのだ。仕方なしにそのズボンをはき、公衆便所ではきかえる。親父はオヤジで奥さんに文句があるのだけど、面としては言えない。息子がさっきいた公衆便所に入って、大声で文句を垂れる。これじゃ、便所虫親子だ。また妻は妻で、なかなか帰ってこない旦那があの女の所へ行っているのではないかと勘ぐっている。
そんな三人三様の姿が面白おかしく語られる。

このお父さん、家がギクシャクしているだけに唯一の心のよりどころは室内で飼っているカーラ。職場でも家庭でも周囲に気を遣っているラオにとって、カーラだけが唯一ラオに気を遣ってくれる存在なのだ(そうだ)。
夜勤を終え、自転車で家に帰ったラオは、何はともあれカーラを探すが、どこにもいない。それもそのはず、カーラは昨夜奥さんと散歩に行っている間に、警察に没収されてしまったから。 北京市では犬を飼うには役所への登録が必要で、その登録料はなんと5,000RMB(およそ70,000円)も必要なのだ。これは一種の税金なんでしょうか? しかし、ラオのカーラはもちろん未登録。
公安の姿を見て、奥さんは逃げ回ったのだが、とうとう捕まり、カーラは御用になってしまった。あくる日の16時までに登録料を支払わないと、カーラは“処分”されてしまう。

ラオはお金を工面するよりも、なんとかツテやコネを頼ってカーラを奪還しようとするのだが...。それはラオだけではなく、息子も様々な努力をする。でも、その努力が裏目に出て...。
このカーラを巡って、家庭内の問題が一気の噴出。もう、カーラを取り戻すどころじゃない。夫婦は離婚の危機に陥り、親子の関係もすっかりこじれてしまう。ラオの奮闘もカラ回りに終わるのか...。

ちょっと締まりがないけれど、それはご愛嬌でしょう。
「そうか、北京の普通の人たちはこんな風に毎日を過ごしているんだな」そんなことを感じてもらえればいいのではないでしょうか。

おしまい。