ライフ・イズ・コメディ!〜ピーター・セラーズの愛し方

心の中にピーター・セラーズは生きている



  

ボクの心の中ではピーター・セラーズは生きている。
彼の訃報に接したのはつい最近のことだと思っていたのに、調べてみるともう随分前のことなんだ。ボク自身も当然のことながら俗人なので、ピーター・セラーズ=ピンクパンサーのクルーゾー警部であり、一連の作品の中に出てくるクルーゾーこそが彼自身だと思っていた。
その中の幾つかの作品はロードショーで観て、「暗闇でどっきり」だったか「ピンクパンサー2」は、京都にある大谷大学の講堂に観に行ったことを思い出す。
そして、「博士の異常な愛情」は毎日文化ホールの固いパイプ椅子に座って身をよじらせながら観た。あんまり理解できなかった。
ボクにとって彼の事実上の遺作になった「チャンス」は確か三宮の東映パラス、それとも朝日会館だったかな、前売券を買って拝見しました。
この「チャンス」では、今までボクが知らなかったセラーズの一面を見たような気がした。こんな芝居も出来る人だったのか。それは彼を見直したと言うよりも「新鮮な驚き」であったような気がする。
そして、訃報が報道され、その記事の中には「(「チャンス」で)アカデミー賞を獲れなくてがっくりした」と書かれていたのが、記憶の片隅に残っている。
なんと、あれから20年もの時間を経て、セラーズが帰って来た。

なのに、上映期間はたったの2週間しかなく、それも2週目は朝一回きりの上映。これってどういうことよ! そして予想通り、使用されるスクリーンは「栄光の5」ではないか! がっくし。

版権の問題などがあって、以前の作品の映像を使えないという問題はあったとは思うけれど、それを差し引いても少し不親切な作り。「ピンクパンサー」「チャンス」や「博士の異常な愛情」などの本編を観ていない人には、結局何がなんだかわからない(のではないか?)。これらの作品を観た人、ピーター・セラーズと言われてどんな人だったのか、すぐに思い出せる人は一体どれくらいいらっしゃるのでしょう?
不親切と言う前に、この作品の市場はもともと日本では極端に狭いのではなかったのでしょうか。
そう考えると、2週間のみの上映も頷ける。ただ、ナビオで上映するのはどうだったのかな?

で、セラーズは気難しさを持つマザコンで癇癪もち、そしてちょっと女にだらしない。そんな男だったんだなぁ。何だか「あれっ」とか「意外やな」と思わずにすんなりと受け入れてしまった。
実は、それほどジェフリー・ラッシュ演じるセラーズをすんなりと受け入れてしまっていた。これは作り手の上手さであり、勝利ですね。
母親に甘え励まされるエピソードや占い師にそそのかされるシーンはなんだか微笑ましかったし、ソフィア・ローレンを口説いたり、ブリッド・エクランドと電撃結婚してしまうなんて、こんな世界もあるのかなとびっくりしてしまいました。
もう一つの驚きは、ボクが苦手のエミリー・ワトソンがね。彼女が意外と、自分でもびっくりするほど良かった。この人は、恋に悩む主人公やヒロインよりも、こんな風にある程度包容力があるどっしりと構えられる役の方がいいですね。
ボクとしては、ケイトーが全く出てこなかったのが、少し残念だったかな。

「Ray/レイ」は、レイ・チャールズをそんなに知らなくても、そこそこ楽しめた作品だと思いますが、この映画はどんな人がご覧になっても面白い作品ではありません。
その理由は、知名度の違いや、間口が開いている音楽と言う環境の中にいたレイ・チャールズと、映画の世界にいたセラーズの違いなのでしょうか? ボクは何だかそれだけではないと思うのですが...。
それでも、セラーズのファンであった方にはたまらない作品です。チャンスがあればどうぞ。また、この映画をきっかけにセラーズの作品を見返してみるのも一興かと思います。特に「チャンス」は、今ご覧になっても、静でいい作品だと思います。
10人ほどかなと思っていたお客さんですが、30名ほどの入りなのには、ちょっと驚いたことを最後に付け加えておきます。

おしまい。