靴に恋して

人生はいろいろあるんだナ〜



  

油断しているうちにどんどん公開され、そしてどんどん終わってしまう。最近はそんなに緊張していないし、アンテナの感度もすっかり鈍っているので観逃してしまうこともほんとに少なくない。でも、諦めないでいると、よっぽどのことがない限りチャンスは再び巡ってくる。二度目、三度目のチャンスを逃すとほんまに危ないけどね。逆に、もうチャンスが無い作品は「そんな作品だったんだ」と自分で納得するしかない。
で、この「靴に恋して」。もうすっかり諦めかけていたら、どんなチャンスが転がっているかわからない。京都のみなみ会館で思い出したように上映がある。ちょっと無理をして予定を組んだ。

スペインの作品。
靴がポイントになっているんだけど、別に靴が主人公ではない。どこの誰でも履いている靴。この靴が縁を結んでいく連作というか、群像劇といいましょうか。幾つかのエピソードが語られ、それが最後には不思議とピタッとはまる。その語り口は見事で、上手い。でも「アモーレス・ペロス」や「めざめ」も確かこんな感じだったなぁ。
改めて考えると、靴は誰でも履いたり持っていたりするものだけど、その人がどんな場所でどんな靴を履いているのか、それによってその人の経済的なものがもろに出てしまう。また、その社会がどの程度裕福なのかも判断できる。靴ってちょっと恐ろしいものだ。
そう考えると「運動靴と赤い金魚」ほどではないにしろ、靴をテーマにした作品がもう少しあってもいいかもしれません。

では、この映画の中でどんなストーリーが展開されるのか。それを言葉で表現するのははっきり言って無茶苦茶難かしい。それほど人間関係が入り組んでいるのだ。なので、ここでその詳細を述べるのは辞めておきます。
知的障害を持つ娘、売春宿を取り仕切るマダム、冷え切った夫婦間の関係を清算しようとする夫人、靴屋に勤めながら自分の店の商品を盗み続ける若い女、全てにやる気を失いクスリに走る女、そして再婚したものの夫に先立たれたタクシー運転手の女...。
脚を見て精神鑑定をする医師、勉強中の看護士、同棲中の恋人との仲を終わらせた芸術家の男、お金はあるが愛に飢えている初老の男、救急室の医師、そしてゴムの長靴ではなくサッカーシューズが欲しい男の子...。
いろんな境遇に置かれている人間が、その境遇に甘んじていたり、その境遇から抜け出そうともがいたり、そして境遇から脱却する様子をまるでパッチワークを見ているように、エピソードを細かく引きちぎりつなぎ合わせて再生している。
そして、終盤になってそれまでバラバラに見えていた各エピソードがつながり始めると、何だか肩の力がスッと抜けていくような、そして「予感」を感じさせる。

そうだよ。世の中悪いことばっかりではないよ。
たまにはいいこともやってくるよ。

この映画で物語りを演じてくれた人々が一堂に会してなごやかに歓談するということはないのだろうけれど、最後は野外のパーティのテントの下で、楽しそうにおしゃべりをしている、そんな光景をアタマに浮かべながらスクリーンを後にしました。
こんな感覚を得られるのは、そんなに多くないと思います。チャンスがあればこの作品のためにお時間を割いても後悔しないと思います。まずまずのおすすめ。但し、刺激を求める若い人には不向きかもしれません。
しかし、世の中にこんなにゲイの男性は多いのかな? この部分だけ、何だか心にひっかかったのも確かです(凄く便利な道具みたいに扱われてた!)。

みなみ会館は30名ほどの入り。もっと少ないお客さんだと思っていただけに、びっくりしました!

おしまい。