復讐者に憐れみを

口の中に一握りの砂を投げ込まれたような...



  

一年ほど前にレコード屋さん(もうこの表現は死後ですね。レコードなんて売ってないもの)の店頭でこの作品の日本語版DVDが並んでいるのを見かけた。立ち止まって手にとって「どうしよう買おうか」と悩んだことがあった。でも、結局買わなかったら、いきなり劇場公開されると言う。韓流ブームだもんね。
劇場公開して、そんなに当たらなかった「花嫁はギャングスター」。こちらの続編「花嫁はギャングスター2」、残念ながらビデオスルーされてしまったようですね。ベストはスクリーンでの公開でしょうが、いろんな事情があって、いろんな形態でリリースされる。もったいないような気もするけど、お蔵入りよりはましだもんね。シンウンギョンは、日本でもそんなに人気がないもんな。仕方ないか。

規模は大きくないけれど、スクリーンにかかる理由はわかる。キャストが豪華なのだ。
今をときめくソンガンホに、めきめき人気が出てきたペドゥナ、そしてシンハギュン...。こりゃそこそこお客さんが呼べる。実際ボクものこのこシネフェスタまで出掛けてしまいました。
詳細は全く把握していなくて、タイトルから何やら復讐劇が展開されるんだろうな程度の認識。
これだけのメンバーが揃っているのに、まさかげんなりしてスクリーンを後にすることになるとは、正直思わなかった。

リュ(シンハギュン)は耳が不自由。プレス工場(?)で肉体労働に勤しんでいる。たった一人の肉親である姉は病を患い、肝臓(腎臓?)移植しかないと宣告されている。しかし、貧しい生活の二人にはそんなお金を工面できるわけがない。そんな時、トイレで見かけた張り紙には「臓器の売買を斡旋する」と書かれていた。
姉のためにリュが出来ることは何だろう。考え詰めた彼は、この臓器密売業者に接触し、金を渡すことと自分の片方の腎臓を提供することで、姉の血液型に適合する肝臓を手に入れることにするのだが...。

リュは真っ裸で放り出されている自分に気が付いた。騙されたのだ。職を投げ打って得た退職金全てと腎臓を失ったリュは途方に暮れる。そんな時に病院からかかってきた一本の電話がリュをさらに追い詰める。姉の血液型に適合した腎臓が見つかった。
でも、彼にはその手術代のあてさえない。
悪いことは重なる。そして、どんどん深みにはまり込んで行く。
リュは恋人のヨンミ(ペドゥナ)にそそのかされ、軽い気持ちでお金の工面をしようとする。それは成功するかに見えたが...。

血を血で洗う復讐の連鎖は際限なく広がり、全てが悪い方へ悪い方へと広がっていく。この波紋の広がり方は異常だ。常軌を逸している。
スクリーンを観ていて、気分が悪くなりさえする。ボクはもう、血で清算を求める「復讐者」に「憐れみ」をかけることは出来ない。
ストーリーはともかくとして、シンハギュンとソンガンホの凄惨な演技が見事であることには間違いない。しかし、製作者が求めている方向が少しおかしいのではないか?
ただね、ソンガンホが演じるキャラクターは意外だった。普通に考えるとシンハギュンの役をガンちゃんが演じるような気がする。この一種逆転のキャスティングこそがこの映画の見せ場なのかもしれない。
それにしても、苦(にが)く苦(くる)しい。
結局、この作品はいったい何を観客に伝えたかったのだろう?それが、ボクにとっては謎。やりきれなさだけが残り、口の中に砂を投げ入れられたような気分になる。
パクチャヌ監督が「JSA」の次、「オールド・ボーイ」の前に撮った作品。この人って一体...。今、イヨンエ主演の「親切なクムジャさん」を撮影中だけど、どんな内容なのか、楽しみなような、怖いような...。

動物園前のシネフェスタで拝見しました。上映が終わり、館内が明るくなっても、気分は暗いまま。皆さんうつむいたまま家路を急いでいらっしゃいました。
もし、ビデオやDVDでご覧になる場合は、心してご覧下さい。でも、決してホラーとかスプラッターではありません。

おしまい。