アメリカン・スプレンダー

世の中捨てたもんじゃない、人生楽しもうよ!


  

一言で表現すると何とも怪しげな雰囲気を持った映画。アメリカンコミックと映画を融合させた映画。

この「アメリカン・スプレンダー」というコミックが、アメリカ本国においてどれほどの知名度を持つのか知らないけれど、映画になるぐらいだから、きっとかなり有名なんだろうな。
ただ、ボクらが日ごろ接している日本の漫画とは随分様子が違う。ハービー・ピーカーは原作を担当しているのだけど、その原作を絵にする漫画家(イラストレーター?)はどんどん替っていくみたい。それに、この漫画は何かの雑誌に連載されているのではなく、いきなり単行本として(しかも、かなり薄っぺらい)発行される。
漫画を取り巻く環境が、日米では大きく異なるのも良くわかる。少年ジャンプもビッグコミックもアメリカには存在しない。そして、アメリカン・スプレンダーを買う層はかなりオタクなのかな?

このコミックそのものが、日常を切り抜いたエッセイのようなものだけに、映画も控え目。
かっこいいヒーローやヒロインが暴れまわるアクションものでもなければ、熱烈大恋愛を繰り広げるラブロマンスでもない。
そこには、ただ普通の街で暮らす人々(裕福でもなければ、極貧層でもない)の生活が描かれている。
「退屈そうに見える毎日だけど、実はそんな毎日にこそドラマは潜んでいる。それを感じられるかどうかは各人の感性に委ねられている」そんな風に語りかけてくるよう。
ちょっと視線をずらして見れば(斜に構えれば?)、退屈な日々にも意外と様々な出来事が起きており、それを丹念に拾い上げてエピソードに組み立てていけば、多くの読者が共感してくれストーリーになる。

このピーカーの鋭いところは、そんなことに気が付いたところだろう。
実は映画の中にピーカー本人も登場する。実に冴えないおっさん。
それに劇中でピーカーを演じる役者さんも、垢抜けないのを絵に描いたようなお兄ちゃん。その垢抜けなさが親しみを覚える。
それに、彼が従事している仕事が、弁護士や経営者、ましてやカウボーイといった派手なものではなく、病院のカルテ整理係という冴えなさがこれまたいい。この仕事には、微々たる昇給の可能性はあっても、昇進の可能性なんかこれっぽっちも無い。綺麗さっぱり無い。与えられた範囲の中で、与えられた仕事を淡々と黙々とこなすだけだ。それどころか、やがてコンピュータに取って代わられそうな仕事。

誰からも尊敬されるような仕事でもない。省みられることだってほとんど無い。そんな仕事をこなし、オハイオ州のクリーブランドで毎日を生活する。だけど、考え方によっては、この生活だって楽しくて素晴らしいことなのかもしれない。
毎日ぶつぶつ言いながらも、仲間に恵まれ、変化に富んでいる。そして、高望みはせずに自分の身の丈にあった範囲で趣味に楽しむ。それはそれで凄くいい。
恨み節を唸ったり、文句を垂れるのは簡単。でも、それじゃぁ自分自身が楽しくない!
こんなことが、この漫画や映画が伝えたかったことじゃないかな。

それでも、人生は山あり谷あり。
奥さんには二度も愛想を尽かされて逃げられ、三度目の結婚をする。怒り過ぎて喉が枯れて声が出なくなるかと思ったら、ガンに冒される(でも化学療法で治癒し、その一部始終を漫画にしてしまう)。このガンがきっかけになって養女を貰うことに。そして、漫画がメディアに取り上げられ、人気TVのトークショウに出演し、すっかり有名人になる。

でも、ピーカーというおっさん、決して天狗にならない。あくまでも自然体で様々な出来事をかわしていく。そして、病院も定年するまで勤め上げてしまうんだから「恐れ入りました!」
それともう一つ、ちっとも説教臭くないところがいいよね。押し付けがましいところが無いから素直に受け止めることが出来る。

観ていて楽しいとか、スッキリするとかそんな映画ではありません。だけど、何かね、共感できる部分があるのも確かです。ボクも、ちょっと考え方を変えて「楽しく」生きてみようかな、そんな気にさせられました。もっとも、ピーカーのような才能はないけどね。
全ての人にオススメかどうかは微妙だけど、観ても損はしないと思う。でも「映画を観て楽しみたい!」という人には向きません(「スパイダーマン」を観てください)。劇場で観てもいいけど、ビデオやDVDでも充分でしょう。今週一杯ぐらいは上映しているはずです。

今回はなんだかまとまりのない文章になってしまいました(ゴメンなさい)。次回は「永遠のモータウン」です。

おしまい。