ソニー

これは予想外にええょ


  

あつい。あっつい!
そう叫びながらも、なんとかかんとか、七月も後半へ入った。あとニカ月ほどの辛抱で、秋風が吹き出すはずだ。その頃になればなったで、この灼熱の太陽が恋しくなっているはず(ほんまかなぁ?)。
梅田での上映は終了してしまい、神戸まで遠征(最近多いパターン)。それにしても、いつ来てもシネカノン神戸は空いているなぁ。

なんとも物哀しいストーリー。
涙が出るとかそんなお話しではなく、息苦しくなって、胸がつまる、そんなニュアンス。

監督がニコラス・ケイジ(最近は、在米韓国人のお嬢さんと婚約したとか...)。
だから、からっとしたコメディなのかと勝手に思っていたんだけど、なんのなんの。人生の挫折とそこからの立ち直りをたっぷり味あわせてくれる。ほど良いヒューマンドラマに仕上がっている。
主演のソニーにはジェームズ・ブランコ。この人「スパイダーマン」での情けなくて頼りない金持ちの息子役よりも、このソニーの方が似合っている(まぁ、情けなくて頼りないのは共通しているけどね)。この人、声や喋り方をほんの少し変えるだけで、大変身(と大ブレーク)する予感があるんだけれどね。
ヒロインにはミーナ・スヴァーリ(う〜ん、エキゾチックなお名前!)。彼女はこの映画ではじめてお目にかかったんだけど、妖艶と一言で表現するのには、ちと妖しすぎる雰囲気を全身から発散させている! 美人なのか、かわいこちゃんなのか、それとも...。全てを紙一重で受け止めて踏みとどまっている、そんな危うげな魅力の持ち主。

どうしてキャロル(ミーナ・スヴァーリ)が、話しだけで聞いていた“伝説の男”ソニーに、一目見ただけですぐに恋してしまうのか、その点はちょっと理解できなかった。
だけど、この映画の世界において、彼女には「今」しかない。彼女は、過去も語られなければ、未来を描かれもしないのだ。彼女はそんな不思議な境遇に置かれている。

結局、ソニーとキャロルはソニーの実家である娼館を根城にしてコンビを組むことになる。
「二人が組んで、たっぷり儲ける」とはどんな仕組みなのか、どれぐらい儲かるのか、これもいまいち理解出来なかったけれど、「たっぷり」とは、きっとそんなにたいしたことがないんだろうな。そんな例が、ソニーの母親が誕生日にヘンリーと一緒に出掛けていく、街の一流レストランでのシーンでさりげなく表現されている。このシーンは凄く悲しい。

この映画のテーマは何か?
これは「自分が生まれ、与えられ、組み込まれた世間の仕組みや性分から抜け出すのは、とても難しい」と言うことなのか。そんな陳腐なものなのだろうか?
言葉では、いつでも抜け出せる、飛び出して新しく人生を始められる、と思っていたけれど、洋服を買いに行った店先で、ベッドを共にした客でもない見知らぬ若い女性から...、いろんなシーンで投げかけられる些細な一言が、ソニーの心を蝕んでいく。
そう、最初からソニーは、立派な男ではなく、大きな志を持っているのでもない。気持ちだけは一人前だけど、実際にはそんなに意思が強くなく、流されやすい。どこにでもいる心の弱い男。

そんな男が送った一夏の経験。
そして、ソニーは決して立派じゃないけれど、自分で殻を破った。
その後、ソニーとキャロルがどうなったのかは大切ではなく、ソニーが自分で決断してキャロルの乗るクルマの後を追いかけた、その事実が大切なんだ。

この映画の見所は、しがない男娼のソニーがいかにして殻を破るのかというよりも、彼の男娼としての日々の生活のスケッチなのかもしれない。
普通の生活を送ろうと乗り込んでいったテキサスで夢破れ、軍隊時代の友人とダブルデートするシーンは傑作。どこか垢抜けてキザなところもあるくせに、反面恋愛感情の吐露にはうぶな一面も見せる。
他にも、せっかく調達してきた警官の制服でのプレイもおかしい(このアメリカの社会ってどこか狂っているのではないかと思ってしまうけど)。せっかく仕入れた仕事も、それが全部ではないだろうけれど、土壇場で値切られてしまったり、自ら暴れてむちゃくちゃにしてしまったりと、どうもソニーは一流ではないようだ。それにソニーと娼館の主人との関係がこじれてしまわないのか、観ているボクが心配してしまう。

結局、叩いても門は開かないかもしれない、でもそれで諦めたら駄目。叩き続けたら、ひょっとしたら門も開くことがあるかもしれないのだから...。

今夜は珍しくカードで勝った。相棒から数十ドルを巻き上げるたその足で、あの世へ旅立ってしまうヘンリーも哀しい。

決して明るいお話しではないけれど、随所に光るシーンがある作品だと思います。それにジェームズ・ブランコ、ミーナ・ズヴァーリという二人の演技も悪くない(いや、ごっついええ)。今後が楽しみ!
また、ニコラス・ケイジがこんな渋めの映画を撮るとは思わなかったなぁ。
お時間があればどうぞ、と言っても、ほとんど上映は終了してしまっているので、ビデオかDVDでってことになりますね。それでも、なかなかのオススメの一本だと思いました。

おしまい。