ロスト・メモリーズ

新鮮な設定だけど、娯楽作とは言い難い


  

なんとも怪しい雰囲気を漂わせる映画。これは韓国映画なのか、それとも日本の映画なのか?

今、恐ろしい勢いで、芸能面での日韓の交流が進んでいる。
ほんの数年前なら、日本の映画にチャンドンゴンが出るなんて考えられなかったかもしれないけれど、今では不思議でもなんでもない。だから見方によれば、この映画は、チャンドンゴンを迎えて作られた日本映画という捉え方も不可能ではない。でも、この映画、仲村トオルが出演している韓国映画なのだ。
仲村トオルにしても、この映画が日本で公開されるとはあんまり期待していなかったのではないかもしれない。
ロマンスもへちまもなく、なかなか硬派な造りになっている。このハード一本槍のストーリー展開には好感が持てる。

朝鮮半島のどこかにある“時の門”。この存在を知った日本人の研究者が、この門を開ける鍵を奪い去る。
そして、日本人はある一人の刺客を過去に送り込む。彼が行ったのは、ハルピンで起こった、朝鮮総督府初代提督の伊藤博文の暗殺を阻止することだった。

ありゃぁ。
日本人は近代史を一生懸命勉強した人以外は、伊藤博文が朝鮮総督府の提督であったことも、彼が1909年にハルピンで暗殺されたことも知らない(覚えていない、それに彼が1,000円札の人だと思った人は年齢がバレますよ!)。
さらにその犯人が朝鮮人のアンジュングン(安重根)義士だったことももちろん知らない。
そのへんのギャップが大きいな。
そして、映画の舞台では、伊藤博文は暗殺を免れ、日韓の併合が行われたまま、日本は何故か日米同盟を結び第二次世界大戦の戦勝国になっている(原爆は、なんとベルリンに投下される)。そして、日本は経済大国として我が世の春を謳歌している。1988年には名古屋でオリンピックが開催され、2002年のワールドカップは日本の単独開催、そしてこの大会で活躍する李東国選手の胸には日の丸が付いている!
そして迎える2008年。この年は日本が“時の門”を使い歴史を操作してから100年目を迎える...。

お話しそのものの壮大な仕掛けはわかるし、とても興味ある設定だと思う。でも、2008年という時間の設定は、ちょっと無理があるかな。もう少し時間が経っている方がいいように思う。
それに、日韓併合が恒久化しているというこの映画の設定が問題視され、“時の門”を操作して本来の歴史を取り戻すのはいいとしても、じゃぁ本来の歴史の結果の今を肯定してしまっていいのか? とも思ってしまうけどな。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。日本では決して作られないようなテーマだけに、意外と面白かった。

チャンドンゴンが一生懸命日本語の練習をして、頑張って台詞を話しているのは理解できる。でも、あんまり聞き取れなかったかな。
SFと割り切るなら、もう少し気持ち悪い、どろどろっとしたシーンがあっても良かったかもしれません。
この映画があることは知っていたけれど、今までノーマークの作品だっただけに、日本での劇場公開も驚きだったし、そのストーリーにも驚きだった。
もう一つ言うなら、この映画(の内容)をさして問題視されず、すんなり公開されたことにも、ちょっと驚きました。

次回は、河内長野まで行って拝見してきた「炎のジプシーブラス〜地図にない村から〜」を紹介する予定です。

おしまい。