スイミング・プール

喋れないと欲求不満に陥る!


  

エンドロールが流れ始め、ショックのあまり席を立てない。

こんな経験を出来ることは、そうそうあることではない(と思う)。
もっと軽い普通のミステリー・タッチの映画だと思っていたし、実際にそんな作品だった。
どうってことのない映画だと思って観ていた。
そして、その通り、お話しはそのままエンディングを迎える気配が漂っていた。
なのに、最後の最後になって「一本取られました」

ストリーはひねったところがなく、すんなり入ることが出来る。
ミステリー界の流行作家サラ(シャーロット・ランプリング)。地下鉄の中でも読者から声を掛けられる。そりゃ、いちいち相手にはしていられない。
そんな彼女が出版社のエージェント(編集担当?)から、次の作品の構想を練るのに彼が個人的にフランスの避暑地に所有する別荘に行くことを提案される。少し季節はずれのようだけど、そりゃ誰だって行きたい。日本でなら軽井沢かそれとも伊豆か。それに“構想を練る”だけではなく、他にも含みがあるような(ないような)...。
その別荘は、プールがあるヴィラ風の豪邸。このエージェントは桁外れのお金持ちなんでしょうか。

数日は平穏に過ぎて行く。静かな環境に、サラの筆も進む(もっとも、最近の作家はパソコンで原稿を書くみたい、ノートパソコンはサムスンで、携帯プリンターはキャノン製)。
そんなある晩、異変が起こる...。
エージェントの娘ジュディ(リュディヴィーヌ・サニエ)が、何の前触れもなくこのヴィラへやって来たのだ。
二人は親子ほど年齢が違ううえに、ライフスタイルも考え方も違う。衝突までもいかないものの、火花が散る。しかも些細な行き違いから、お互いに打ち解けるチャンスを逃していく。

そして...。

青い水をたたえるプール。
その青さと、透明感は何かの象徴だったのだろうか。水面を覆う黒いシート。そして一面に浮く落葉。
何かが起こることを暗示するようなシートのふくらみ。

謎解きがストーリーの中で展開されるのではない。
鮮やかな、鮮やか過ぎるラストで、観るものに投げかける手腕は“お見事”としか言いようがない。
こうもやすやすと術中にはまってしまうとは...。

このオゾン監督の作品は、シャーロット・ランプリングが主演の「まぼろし」。幻想的でありながら、どこか重苦しくてモノクロのイメージがつきまとう映画だった。最近では「8人の女たち」。この映画で末の娘を演じた少女こそ「スイミング・プール」でジュディを演じたリュディヴィーヌ・サニエだったとは...(気が付かなかった!)。劇中劇を傍から見ているような中身が詰まった映画でしたね。そして、この「スイミング・プール」。予想だにしなかった展開に、ただただ脱帽。
結局、このオゾン監督は、女性の視線を描くのがとっても上手いのではないでしょうか。
繊細のように見えて、実は大胆不敵。することが緻密かのようで、大雑把。そして男たちはその掌の上で踊らされているだけなのかもしれない。そんなことを良く知っているんやなぁ。

シャーロット・ランプリングは、重厚感と存在感を併せ持つ大女優(だと思う)。パっと見は普通のおばさん(失礼!)だけど、目の動きでみせる芝居は、それこそ一級品。
リュディヴィーヌ・サニエは今後の活躍が大いに期待できそう。字幕を追いかけるばかりだったのに、彼女の声が妙に耳に残る。単にルックスがいいだけの女優さんでは終わらないよう雰囲気がある。

出来ればデートでご覧になるのがいいのではないでしょうか? そして、観終わってから、この映画について咲かすだけ花を咲かせば盛り上がること間違いなし! もちろん、一人で観ても充分に堪能できます。但し、誰かとこの映画についておしゃべりしたくなるのは間違いないけどね。

日曜の昼下がり、渋谷のシネマライズ、地下のスクリーン。ほぼ満席でした。
前の日にル・シネマでたまたま隣り合わせた方と、ここでも隣り合わせる不思議な縁。もちろん奇跡のような偶然なんだけど、ちょっと驚きました(言葉は交わしていないけどね)。
大阪ではナビオで上映されるようです。お時間を作ってでも是非ご覧いただきたいですね。二重円のオススメ◎。
大阪では今月末からナビオ他で上映されるようです。

何故かこのところキーボードを打つ手が進まなくて、この映画は観てから二週間以上も寝かせてしまいました、ゴメンナサイ!
次回は、ちょっと悲しいお話し。「アフガン零年」をご紹介します。

おしまい。