「ライ麦畑をさがして」

支払った代償はあまりにも大きいのでは?


  

すっかり日が長くなったね。
19:00前の上映に間に合わせて映画館へ向かって外を歩いていても、まだまだ明るい。日が長くなっただけではなく、暑くなってきた。上着を脱ぐだけでなく、半袖のシャツだけで映画を観るほどだ。ついこないだ雪にまみれて山道を歩いていたなんてウソのよう。月日が過ぎるのが早いだけでなく、季節の移ろいも早い早い。

続けてシネ・ヌーヴォでもう一丁。レイトまで観るのは久し振り。
今度はアメリカの映画。こちらも青春もの。
ちょっと変わった特殊な環境で育った青年が主人公。彼はD.J.サリンジャーが書いた「ライ麦畑でつかまえて」に心酔している。そして、心酔するあまり、隠遁生活を送っているこの作者に会いに行こうとする。その過程を通して、様々な事柄に出会い、自分を見つけるというストーリー。
何もお説教臭いお話しではない。かと言って爽やかな印象を残す作品でもない。いささか中途半端な青春映画なのだ。

このメインのストーリーに付随して、彼の旅に途中まで付き合ってくれる高校の同級生TJ(レイチェル・ブランチャード)がなかなかいい。この子かわいい。
彼女に対して主人公が取った思いやりのない態度のせいで、この映画には「爽やかさ」が無くなっている。どうして気が付かないのか、殴ってやりたくなるほど。お前はそんなにサリンジャーに会いたいのか、さっき言葉では「TJのことで頭が一杯だ」って言ってたじゃないか。今引き返さないと、取り返しが付かないことになるぞ!
そして、やっぱり...。

この作品の見せるところは、なかなかネタが割れないところだろう。主人公のニールがどんな人物なのか、どれだけ心を病んでいるのか、こちらには少しずつしかわからない。だからどんな展開になるのか予想できないところだと思う(単に、ボクが集中して観ていなかっただけかも)。そういう意味ではニールの紹介の仕方は上手かった。
だけど、結末はもっと違った展開を用意しておいて欲しかった。あまりにもやるせない。
確かにニールはサリンジャーの言葉を借りなくても、自分の言葉で物事を見て、考える、そんな自分を手にしたかもしれない。でもそのために払った代償はあまりにも大きかったのではないか。自責の念に苛まれて、心に異常を来たさなかったのか不安。

きっと映画の中だけなんだろうけど、アメリカではいとも簡単に男女が恋に落ちるんだなぁ。男の子のアタックも積極的だしね。「こんど、何時会える」「可能性は低いけど、いつか会えるワ」。いい感じだねぇ。ボクが高校生でもこんな会話は出来ないし、彼女が乗せたバスを自宅まで自転車で追いかけるなんてことは...でけへんな、きっと。

小説家という職業には憧れを感じるけれど、きっとニールのような狂信的なファンからストーカーまがいの行為を受けるのはしょっちゅうなんやろな。考えてみたら大変な職業だ。しかし、一発世代を超えたベストセラーを当てて、雪深い田舎で隠遁生活を送るのも、何だか悪くないかなぁ(まぁ、ムリか?)。
ニールが心酔してしまった「ライ麦畑でつかまえて」。大昔に数行読んで投げ出してしまった記憶がある。最近、村上春樹の新訳も出たそうなので、一度読んでみようかな。まずは旧訳から。

この映画の上映は6/6まで。そうオススメってことはないんやけどね。
今後のヌーヴォの上映では、前回の上映時に見逃した「能楽師」が楽しみ。また7月に入ってからだけどソルギョングの出世作「ペパーミント・キャンディ」がモーニングとレイトで上映されるようです。

おしまい。