「マイ・ビューティフル・ジョー」

爽やかな後味


  

まるで絵に描いたようなハートウォーミングなストーリー。
それでいて、ちっとも“嫌味”な部分を感じさせないのが、この映画の巧さなんでしょう。さほど大きな感動はないけれど、観終わって爽やかな気持ちになるのはボクだけではないでしょう。

アイルランドからニューヨークのブロンクスに移民してきたジョー。見た目はごつくて少々イカツイが料理や掃除が得意だし、地元の誰からも好かれているお花屋さん。
最近どうも頭痛がひどい。医者からは、脳に腫瘍があるので手術を受けるよう勧められている。その手術は難しいので、治るかどうかもわからないし、腫瘍が悪性かどうかも手術してみないとわからないそうだ。
そんな矢先、家に戻ると妻は浮気の真っ最中だし、挙句の果てに「あなたと別れたい」と切り出される始末。
そんなジョーは、妻の父親から「あのアバズレ相手に、よく今日まで我慢してくれた」と慰められながら、西へ向かって旅に出かける。それは、街のパブでよく出会う男から「旅が男を磨く」とアドバイスされたから...。

そんなジョーが旅の途中で立ち寄ったケンタッキーのルイビル(米国競馬界の聖地やね)。何気なく買った馬券が当たり、15,000ドル(175万円ほどか?)の大儲け(羨ましい!、米国では高額払い戻しの場合小切手で支払われるのね、勉強になりました)。それをこともあろうか、修道院に寄付してしまう。
そして、それをよだれをたらしながら見ていたハッシュ(シャロン・ストーン)と知り合う。彼女はジョーが金持ちだと思い込み、彼のお金を奪おうとするのだが...。
今までとことん男運が悪かったハッシュは男を信じることや愛することを忘れていた。自分が男にすがるときは金目当てだし、男が自分に言い寄って来るときは寝ることしか頭にないと思っていた。
でもジョーは違った。そして、自分の娘や息子の力を借りながら、いつしかジョーの姿や態度の中に「人を愛するとは、人から愛されるとはどういうことなのか」を思い出していく。
そんな愛の再生の物語り。

なんか文章にしてしまうと「クサイ」ように思われるかもしれないけど、この作品は全然そんなところは無く、逆にいつも真摯な態度でかつユーモアたっぷりでどこかとぼけて、でも包容力がありそうなジョーの姿に男でありながら惚れてしまう。
なんで、こんなジョーがハッシュのような女にいつまでも気を留めているのかとも思うけどね。そのへんは彼女の子供を上手く使っている。二人の子役はなかなかいい。

打算的ではない、真実の愛(まぁ、そこまでは行かないけど)とは、こんなにすがすがしいものなのか。固苦しくなりそうな場面はコメディタッチでさらっとはぐらかしてしまうけど、ギャンブルと金に執着するハッシュの姿と余命幾ばくも無く悟りの境地に達しようとしているジョーの姿の対比がいい。
「執着」は人が生きていく上で根源的な原動力にもなるんだけど、その「執着」を取り外してしまうと、人間怖いものはなくなるんやなぁ。
ジョーの別れた女房は実は...と言うのはちょっと蛇足のような気がするけど、それを含めてもなおなかなかの佳作だと思います。構えてじっくり観るようなタイプの作品ではないけれど、観て損はないと思います。
でも、この日のOS劇場C.A.Pはたったの11人。しかも、年寄りばっかり。ちょっと残念。それでももうしばらく上映しているようです。

おしまい。