「卒業」

余韻が後をひく


  

ある意味、意味不明な、それでいて味わい深い佳作。そんな映画だ。
伏線が張られているが、その伏線は極めて見えにくい。巧妙にオブラートに包まれている。そしてその輪郭がぼんやりと見えてきたときに、この映画は終わってしまう。
「余韻を楽しむ」映画なのだ。映画を観た後に、いろんなシーンを思い出しては、その意味を自分なりに考えてみる。そして自分なりの答えを見つける。そんな楽しみ方が出来る映画。
普段、あまり映画を観ない人にこそ観てもらいたい作品。
そして、日本映画もこんなに素晴らしい出来栄えの作品があるのだと知ってもらいな。
セリフが多くなくて、あんまり説明されなくて、意味不明な分だけ観る人は考える。その「考える」という部分を大事にしている映画だ。だから「考える」のが嫌な人には向かない。
かなり説明不足で不親切。でも丁寧に作られている。

傘やカメラ、携帯電話それにバーのマスター
などなかなか考えられた小道具(?)が上手く活躍しているのも楽しい。 映画の中で流れる時間はせいぜい3カ月だけど、その中ではほぼ20年の歳月が重みを増して語られているのも面白い。
主要な三人の登場人物が、決してスマートではなく、どちらかと言うと不器用に生きているのも好感が持てる。三人とも不器用な分だけ誠実に生きているのだ。

ここでストーリーを紹介してしまうのはこの映画に関しては「野暮」。でも、何も知らないで観ると「何にもわからない」かもしれない。でも、あんまり前知識無しで観た方がいいかもしれない。

堤真一と夏川結衣の関係は理解できる。特に堤真一の優柔不断さというか、言葉の少なさ、押しの弱さはとってもわかる。そうそう、言葉に出さなくても、態度や言葉の行間を読んで自分の思いを察知してよ、ってことでしょ。男ってそう思う部分はあると思う。
それに応える夏川結衣はなかなかいいよ。うん。
でも、このお話しの本当の主人公内山理名は、正直なところよくわからない。ほんとうにそんなんでいいのか? それにしては、やっていることはストーカーそのものやん。ちょっとピュアすぎるかな。人間はもっとどろどろっとしたところもあるような気がする。
でも、そんな部分は映画の中で降りつづける雨がざっと流してしまったのでしょうか?

これは、映画だから「夢を見させてくれる」んでしょうね。そうです、一緒に夢を見ようよ。
こんな静かな映画、ボクは好きです。
上手く説明できないけどいい映画だと思います。おすすめ。
もうしばらくナビオTOHOプレックスで上映しているはずです。

おしまい。