「旅立ちの汽笛」

中央アジアからやって来た地味な青春物語


  

何年か前に「あの子を自転車に乗せて」というキルギスタンの映画を観た。なかなかいい少年の物語りだった。今回観てきたのは、その映画の続編ともいえる作品。監督も同じだし、主演(監督の息子)も同じ。ただ、時は流れているので「あの子〜」の時に少年だったチンプは青年に成長している。

チンプは学校を終え、兵役につくまでの夏を何をするわけでもなく仲間と過ごしている。年のころは17か18ほどでしょうか。
これくらいの年頃だと、気になるのは女の子のことばかり。チンプはいつも一緒にいる仲間のなかで、一人の少女のことが気になって仕方がない。でも、その思いは心に秘めたままだ。
彼らが過ごす日々がいい。野外でのダンスパーティだったり、友人の家でレコードを聞きながら腕を組んで...。仲間うちではカップルになっている男女もいて、チンプの心はじりじりと焼ける。

そんなチンプのほのかな思いとは全く関係なく、彼の家庭では父親と母親の不仲が日増しにひどくなる。いくら注意されても一向に酒を辞めることができない父親は、この晩も飲んだくれてしまい、乗って行った単車をどこかに置き忘れて帰ってくる。そんな父親を母親は激しくなじる。そんな二人を目にしてチンプは戸惑い、悩む。
友達と遊んでいても、ほろ酔い加減のオヤジを見かけると、仲間の輪からそっと離れてオヤジを家に連れて帰る。

軍隊に行くまでの間に過ごす日々は貴重なはずなのに、チンプの周りではいろんなことが起こる。
違うグループとのいさかい。仕事仲間との談笑。街に住む娼婦とのちょっとした交流...。
そんな些細な出来事が淡々と綴られる。そんな経験の一つひとつがチンプを少年から青年へと脱皮させていくんだな。何とも思っていなかったのに顔に痣がある娘に抱きついてしまう。そして、憧れの彼女にも告白する。
そして、自分だけではなく、いろんな人が愛に悩んでいること、またいろんな形の愛があることも知る。
結構ドラマチックなことが起こっているのに、もう一つ盛り上がらず、抑制がきいた作りになっている。青春の境目のやるせない気持ちは上手く描かれているとは思うけれど、観ていてなんだかもうひとつのれないのも確かです。
この地球上に生きている人の数だけ青春はあるんだな、なんてことを考えていました。
そして全ての人が、その青春時代を戦争のない平和な地球で送ることが出来たらどれだけ幸せなんだろう!

子供の気持ちの延長上に甘い気持ちで乗り込んだ兵舎行きの汽車の中で、兵士から手厳しい洗礼を受ける。このときチンプたちは大人への階段を確かに上がり始めてんだなぁ。チンプを載せた汽車は痣のある女が掃除をする踏切の前を汽笛を鳴らしながら通過していく...。

テアトルで去年上映されている時には行けなかった。西灘劇場でも上映されることになり、ようやく観ることができました。平日の最終回とあって、10名もお客さんはいなかったけど、こんな地味な作品だものね、仕方ないか。

おしまい。