「女人、四十。」

老人問題をさらりと描く


  

この年末年始に九条のシネ・ヌーヴォで開催されていた「中国映画の全貌2002-3」でも上映されていたが、見逃してしまった「女人、四十。」。
神戸・新開地のパルシネマしんこうえんで上映されるので、日曜の昼間に出かけた。
途中、顔なじみの書店さんに顔を出し、商店街をブラブラ歩く、ここ湊川の商店街「東山商店街」は、最近では珍しいなかなか活気のある商店街だ。この日は翌日に桃の節句を控えて、桃の花を組み合わせた花束(?)を手にしている人をよく見かけた。

日曜の昼下がり、どんな人がこの映画館に来ているのかと言うと、同じ下町でもトビタや天六とはだいぶ雰囲気が違い、割と年齢層は高いものの上品なお客さんがほとんどで、間違っても長靴を履いたような人はいなかった。二本立てのもう一本が「阿弥陀堂便り」だからなのかもしれないけどね。
意外なことに7割方座席は埋まって、ほぼ満席って感じ。ちょっとびっくりしました。ここパルシネマしんこうえんはアットホームな感じで、なかなかおすすめの映画館ですよ。見逃した作品が上映される時には是非どうぞ。

さて、「女人、四十。」どんな映画なんでしょうか?
1994年の香港映画。深刻になりがちな難しい題材をコメディタッチでさらりと描いた秀作。内容はずばり「老人介護」です。

香港の新界に住む主婦のメイは一人息子も大きくなり、自動車教習所の教官の旦那と3人暮らし。自分は主婦と貿易会社の営業部長の仕事をそつなくこなしている。旦那の両親はすぐ近くに住む。義母とは上手くいっているのだが、義父とはどうも折り合いが良くない。
そんなある日、義母が倒れそのまま帰らぬ人となってしまった。それだけならいいのだが、その葬儀の最中から義父の様子がどうもおかしくなってしまった。健忘症に奇行が目立ち始める。医者に連れて行くとアルツハイマーだと診断され、もう元には戻らないと宣言されてしまう。この義父、自分の娘や息子も区別がつかない。そのくせ、今までメイと仲が悪かったのに、メイだけを判別でき、もうメイの言うことしか聞かない。
主婦としての仕事も、会社の仕事もこなしてきたメイだが、目を離すと何をしでかすかわからない義父の面倒までは見切れない。とうとう体調を壊し寝込んでしまう。
そして、このメイの一家が下した決断と義父の運命は如何に...。

シリアスにならざるを得ない題材なのに、見ていてちっとも肩が凝らないのは主演のメイ(ジョセフィンシャオ)のいかにも香港人(ホンコンヤン)としたバイタリティ溢れるキャラクターに負うところが大きい。映画の冒頭で見せる市場で魚を買うシーンや、その魚をどう料理するかでまな板の上に魚を置いて考えるシーンで、メイは観客の多くを自分の味方につけることに成功している。それだけでこの映画のほとんどは成功したようなものだ。
メイだって聖人ではない。見栄もあれば、エゴもある。そんなシーンだって、観客は自分の味方なんだから共感をもって受け入れてくれる。誰でも、アルツハイマーの老人(なおかつ元気だけは有り余っている)を抱えたこの一家を応援したくなるよ。

最後はどうオチをつけるのかとハラハラしながら見てしまう。ある意味ハッピーエンドだけど、現実の話しなら、ほんとはもっと厳しいかもね。正直言って、ボクもこんな境遇に置かれたら...と映画を観ながらしばし考えていました。

まずまずのおすすめ。そう度々上映されるチャンスはないと思います。気になる方は入念にチェックしてみてください。パルシネマしんこうえんでの上映は終了しています。
スターでもない中年のおばさん(失礼!)が主演なのに香港では大ヒットしたそうです。メイやメイの家族がいつも着ているTシャツが凄くかっこいい! その他、なんとスティーブンフォンが義母の葬儀にビデオカメラマン役でチラッと顔を出していますよ。

おしまい。