「バティニョールおじさん」

ほんとうはいいおじさん


  

テアトル梅田は感じのいい映画館。従業員の皆さんも気持ちがいいし、この日のお客さんも皆さん映画を観慣れた人ばかり(若干一名ヘンな人もいたが)で、とても良い環境で映画を楽しむことが出来ました! 嬉しかった!
ここは火曜日がメンズディで男性は1,000円均一と有難い。40名ほどの場内にも男性の方がずっと多かった。

さて「バティニョールおじさん」。
最近続けて観ている気がするホロコーストもの。ほんとにこのテーマが多いね。今回もその見せかたは全く違う。子供を題材にしている分「ふたりのトスカーナ」みたいかなと思ってたけど、この映画はあくまでも主人公は「おじさん」。

この映画は冒頭がいきなりショッキング。そして、このバティニョールおじさんがいい人なのか良くない人なのか、最初は判断がつきかねる。
見るからに人のよさそうなこのおじさん。パリの街角でハム屋さん営んでいる。欲の無い人で、俗物の塊のような奥さんにいつもお尻を叩かれている。しばらくして、このおじさんがどれだけいい人なのかは自然とわかってくる。ちょっと優柔不断なところはあるけれど、愛すべき底なしのいいおじさんなのだ。そして、このいいバティニョールおじさん、好むと好まざるとに係わらず大戦下のパリで、戦争に、ユダヤ人排訴に否応がなしに巻き込まれて行く。

当時パリはナチスドイツの占領下にあった。生きていく上で、商売を営む上で、ナチス側に付いた方が都合が良いのに決まっている。しかし、おじさんはそんな近視眼的な目で世間を見ていない。反骨心もあっただろう、それに心のどこかにナチスの天下がいつまでも続く訳が無いという思いもあったはずだ。 ナチスとは距離を置いて生活したいと思っているのに、なかなかそれは許されない。日和見主義のおバカな将来の婿殿に気を遣い、様々なプレッシャーに身を晒しつつもそれをのらりくらりとかわしながら生活している。この将来の婿度を含めて、おじさんの家族はなかなか面白い、娘さんはちょっと何を考えているのかよくわからないけどね。
そんなおじさんを一変させる事件が起こってしまう。それが、この映画の冒頭。
おじさんは自分が意図しないまま、実はユダヤ人迫害の片棒を担がされてしまう。その事実を知った時のおじさんの眼差しには悲しさを通り越した、惨めさともまた違うものが宿っていた(そのおじさんを見つめるバースタイン一家の視線も痛いほどに鋭かった)。
実際にストーリーが大きく動き出してからのこの映画は、一転してどちらかと言うとほのぼのとしたタッチになる。だから、この映画のほんとうのヤマ場は、最初の1/3にあるのかもしれない。

おじさんの相棒役の子供が、もう何とも言えない。時には淋しくはかなくてあわれで切なげ、しかし時には口ばっかり達者な憎たらしいガキ。でも、とっても賢くて頭の回転がいい子なんだ。この子がとってもいいアクセントになっている。ボクがおじさんなら、すぐさま切れてしまって、もう相手にしてないやろな、きっと。

しかし、なんの縁もゆかりもないこの少年たちを、命がけで守りスイス国境まで送り届けるこのおじさんに拍手を送りたくなるのはボクだけではないと思います。
爽やかなこの作品とおじさんに「一票」ですね。
実はこのバティニョールおじさん、彼こそがこの映画の監督ジェラール・ジュニョなんですね(ちょっとびっくり!)。

残念ながら「バティニョールおじさん」の上映は3/7で終了してしまいました(紹介が遅れてごめんなさい)。どこかでリバイバル上映されるのを待つか、そう遠くないうちに発売されるであろうDVDかビデオでご覧ください。

おしまい。