「サラーム・シネマ」

いやぁ、面白い!


  

このところアジア映画の上映が多くなってきた動物園前にあるシネフェスタ。やっぱりパラダイスシネマや扇町ミュージアムスクエア閉鎖の影響かなぁ。有難いことです。しかし、フェスティバルゲートは日ごとに淋しくなっていくな。どんどんシャッターが閉まっているし、人通りも少ない(いや、コンビニ以外に人はほとんどいない)。
ここは毎週月曜日がメンズデーで、男性は1,200円均一。そんな月曜にも関わらず、18:50からの回はボクを含めてたったの4人だけ。これはどう考えても淋しい。大丈夫なのか心配になります。
ロビーにはずらりとアジア映画のポスターが貼られている。こないだちょっとご紹介したスーチーの主演作3本もここで連続公開されるようで「クローサー」「スパイチーム」「ミレニアム・マンボ」の各ポスターも大きく貼られている。その他にも楽しみなのは、チャンイーモウ監督の未公開作「キープ・クール」かな。予告編を見る限り楽しみです。

さて、今回観てきたのはイラン映画の「サラーム・シネマ」。
企画そのものがなかなか面白い。それでなくても淡々としたタッチが多いイラン映画の中でも余計に目立つクールな、どこか醒めたタッチの作品。しかし、出演者はみんなが皆とても熱い不思議な作品。
モフセン・マフマルバフ監督が新作の映画を作ることになり、その出演者をオーディションで選ぶことになった。そしてその告知を新聞に掲載したところ、オーディション会場には3,000名を超える人が集まった。
最初からこういう狙いだったのか、それともカメラを廻してみたら面白かったからなのかは知らないが、そのオーディションの様子をドキュメンタリータッチで追ったのがこの「サラーム・シネマ」という映画。

3,000余名の群集が会場の建物を取り巻き、応募用紙を奪い合う様子に始まり、やがて書類審査を通った(ほんまか?)人たちの数名から20名ほどの集団でオーディションが開始される。
ここで繰り広げられるやりとりは、はっきり言って傑作だ。国民性なのか、単に自己主張の強さなのか、それとも映画にかける情熱なのか、それとも単に映画に「出たい」という情熱のなせるワザなのか、監督との丁々発止のやり取りは見ていてほんとに面白い。
それに愛情や優しさのかけらも持ち合わせていない監督の突き放した受け答えがまたいいんだなぁ。理解不能というかほとんど理不尽な要求を次々とぶつけ、それが出来なければ「さようなら」だ。
「俳優は感情をコントロールしなければ勤まらない」と言って「今から30秒後に涙を流して泣け」と要求する。その姿はある意味“鬼”ですね。
集団の中には「帰れ!」と言われても帰らずに食い下がる人物が必ずいる。そんな人物とのやり取りが最も面白いのだ。どうしても映画に出たいが、その理由を他の人には聞かれたくないとがんばる女性が良かった(綺麗な人なんです。この人なんと、後に『ギャベ』の主役を演じるシャガイエグ・ジョタト嬢、他にも悪人顔のおっちゃんもこの後に『パンと植木鉢』の主役だそうです。ミルハディ・タイエビ)。
最も長時間登場していた親子三人と16歳の女性二人組も印象深い。この若い二人が監督の代わりにオーディションの試験官になった途端に、態度が豹変するのがまたいい(あんまりかわいくないけど、メガネを掛けていない子は別の映画で見かけたことがあるような気もするけど...)。

しかし「女優」になるとは、どんなことなのか。カメラの前に立ち、演技をし、報酬を受け取ることなのか? でも、この二人組みの女性を見ていると、彼女らが定義する「女優」とはそれだけではない。付き人がいたり、みんなにちやほやされたり、かっこいい男優と競演することなどが、その定義に含まれているのは明らかだ。見ていて、面白いし、考えさせられる。

アッバス・キアロスタミ監督の「風が吹くまま」に主演していたモリアキ部長(ベーザド・ドラニ)が照明担当で随所に顔を出しているので、お見逃しないようにね。
しかし、こんなんで映画にしてしまっていいのか?

残念ながら、シネフェスタでの上映は終了してしまいました。今後は、どこかの特集上映でやる可能性が高いので丹念にお調べください。

おしまい。