「酔っ払った馬の時間」

世界初クルド語の映画


  

今回お邪魔したのは動物園前にあるシネフェスタ。
受付でもらったチラシやポスターを見ていると、この春はこのシネフェスタで香港やイランの映画が相次いで上映されるよう。楽しみですね。

この「酔っ払った馬の時間」はイランの作品。おそらく世界で始めてクルド語で作られた映画だそうだ。年末に十三の七藝で観た「遙かなるクルディスタン」もクルド人のお話だったし、今回パンフを立ち読みして、以前に観た「ブラックボード」もクルド人の物語りだったと知った。そうだったのか。

イラン映画の例に漏れずこの作品もかわいらしいけれどたくましく生きる子供たちが出てくる。出てくるのではなく、数年前に母親を難産で亡くし、つい最近父親を地雷で失ったまだ幼い兄弟5人が主人公。
イラクとの国境地帯にある彼らの村では、イラクへ密輸物資を運ぶことで生活の糧を得ている。まだ12歳のアヨブは5人兄弟を養うために大人と一緒にキャラバンを組んで国境へ向かう。ラバを持つものはラバの背に物資を乗せ、ラバがないものは自分の背中に荷物を担ぐ。
アヨブには兄がいるのだが、重い障害をもつ上に難病にかかっておりすぐにも手術を受けないと余命いくばくもないと宣言されている。次男のアヨブに一家の生計がかかっているのだ。
生活費と手術費用を稼ぐために運び屋稼業にせいを出すアヨブだが、厳しい山道、雪、寒さ、そして国境警備兵、無尽蔵の地雷などに行く手を阻まれ生活費を担うだけで精一杯。
そんなある日、近くの村から姉の婚礼話が舞い込んできて...。

日々の労働で疲弊していくアヨブの姿を見るのはせつない。
しかし、この映画のせめてもの救いはこの兄弟の美しい兄弟愛。ほんとに仲がいい兄弟の姿を見ていると心が休まる。妹ために手に入れたまっさらなノートを教室まで届けに行くアヨブは照れくさそうな顔をしているが、彼を見上げる妹の同級生たちは一斉に羨望の眼差しをアヨブに向けていた。上の姉が嫁ぐ日に見せたアヨブの涙には感動。

タイトルは厳しい山越えの密輸キャラバンに出発するときに、ラバたちが凍えてしまわないように飲み水に度のきつい酒を混ぜて飲ませるところからとられています。この水(?)を飲むときのラバの顔がなんとも「呑み助」に見えて仕方ありません(ごっついおいしそうに飲むんだもの!)。で、肝心なときに酔っ払ってしまい立ち上がれなくなるんだから、可笑しいやら、情けないやら...。

何も難しいお話しではありません。気楽に観て、笑いって、しんみりしてください。
アヨブのすぐ下の妹がこれまたすごくかわいい。
例によってまったく余韻や蛇足などなくすぱっと終わってしまう、イラン映画らしいエンディングです。
まずまずのおすすめ。30名ほどの入りと、シネフェスタにしては多いほうでした。

おしまい。