「僕のスウィング」

心と耳の音楽


  

この日観る4本目の映画は、この日がちょうど初日の「僕のスウィング」。
劇場はシネマ・ライズ。シネマ・ソサエティからは歩いて10分もかからない。 冬の夕暮れ時の渋谷は薄ら寒いのに凄い人。ほんと人、人、人で酔ってしまいそう。それも若い人ばっかりで、ボクのようにおっさんの一人歩きは皆無だ。淋しいなぁ。ラーメンでも食べようかと思っていたけど、どの店も結構埋まっていて、仕方なしに(どう「仕方なし」なのかよくわからへんけど)目に入ったハーゲンダッツでアイスを食べた。これって、奇異に映ったやろなぁ(まぁイートインの席は通りから見えない場所だけど)。
前の会が終わって人が出てくる。その人が途切れない。ほとんど満席だったみたい。客層は結構高い。ボクのような中年でも違和感があまりない。売店ではサントラCDが飛ぶように売れている。
入れ替えが終わって整列入場。思っていたよりも広い劇場で、スクリーンもワイド。座席はすり鉢状になっていて、前の方を除けばどの席でも見やすそうだ。また座席と座席の前後の間隔も広くゆったりとしている。なかなかいい劇場、気に入りました。

一昨年に観た「ベンゴ」のトニー・ガトリフが撮った新作、と言うだけで期待が膨らみますよね。「ベンゴ」はフラメンコが主役の情熱的で胸の底から心が震えるような映画だった(但し、ストーリーよりも音楽が)。今回の「僕のスウィング」はどうかな? フラメンコからジプシーが奏でるマヌーシュ・スウィングに代わっている。そして、主役は10歳そこそこの微笑ましいカップル。
結論を言うと、心の底を揺すぶられるいい音楽の映画だった。
正直言って、ストーリーの進行は二の次三の次だ。最後にはマックスとスウィングの淡い恋の行方にはあまり注意を払ってられない。

「僕たちが演奏しているのは目の音楽じゃない。心と耳の音楽なんだ」

ある晩、マヌーシュ(ジプシーが暮らす集落)でパーティが開かれる。楽器を片手にした人々が大勢集まり、マヌーシュ・スウィングが奏でられる(みんないい表情してるんだ!)。やがて、パーティはお開きになるがまだ飲み足りない連中は、一足先に帰ったユダヤ人(?)の酒屋の主に店を開けさせようと店の前で騒ぎ出す。そこで一計を講じたのが医者。騒いでだめなら「彼を音楽でおびき出そう」とヘブライ語のラジオ局にダイヤルを合わせる。するとあら不思議、おやじは折れて上機嫌で酒を出してくれた。
このエピソードいいなぁ。人を動かすのは言葉やましてや腕力や暴力ではなく、音楽なんだ。

フランス人のマックスは夏休みの間、ストラスブールのおばあちゃんの家に預けられていた。街でふと耳にしたマヌーシュ・スウィングにたちまち魅せられて、ギターを買いにマヌーシュにやって来る。スウィングという女の子がギターを売っていると聞かされていたからだ。スウィングからクズ同様のギターを押し付けられたマックスは、そうとも知らずに、ここで一番のギターの使い手ミラルドからマヌーシュ・スウィングの手ほどきを受けることになる。
ギター片手に毎日ミラルドのトレーラーハウスを訪れるようになったマックスは、ギターの腕前はなかなか上達しないが次第に大きな黒い瞳を持つスウィングに心を奪われるようになる。今や、ギターを習いにいっているのか、スウィングに会いに行っているのかわからない。また、マックスはミラルドやスウィングの祖母からジプシーの昔話を興味深く聞くようになっていく。今までジプシーの存在を知らなかったマックスにとってマヌーシュでは見るのも聞くのもすべてが新鮮で驚きの連続。
スウィングと仲良くなり、マックスがスウィングを女の子として意識しだしたときにマックスの長くて短かった夏休みが終わろうとしていた...。

どのエピソードもきらめくばかりのギターの音色に乗って光り輝いている。貯木場、川岸の草むら、平底ボート、薬草におまじないの黄色い花と小石の石塚...。
マックスとスウィングに会いにマヌーシュへ今すぐ出かけてみたくなりますよ!
なかなかのおすすめ。
大阪ではシネリーブル梅田で公開されるようです。是非ご覧ください。もちろんサントラも欲しくなりますょ。

おしまい。