「紅い服の少女」

中国版アメリ


  

この日の二本目は「紅い服の少女」。
「心の湯」などで日本でも有名な朱旭の映画デビュー作というので観ることにしたんだけど、どうしてどうしてとてもいい映画だった。とっても丁寧に作られた、爽やかさや後味の良さを感じさせる佳作(もちろん朱旭も本作が映画デビュー作とは思えない好演振りを発揮していますょ、「北京好日」の韓さんんもちょこっと顔を出しています)。

「どうして自動車は歩くより速いの?」

何に対しても好奇心旺盛な少女がそのまま成長して、女子高生になる。
勉強もよく出来て、頑張り屋さん。性格は恐ろしいほどまっすぐ。正義感が強く、悪いことは悪いと言うし、駄目なものは駄目。なんとも羨ましいような、危なっかしいような...。思ったことは何でも口に出してしまう。これでもう少し頭を働かせれば万事上手くいくんだろうけど、彼女にとって自分が他人からどう思われているかは関係なく、曲がったことや色眼鏡で人や物事を見るのが大嫌い。そんな彼女の揺れ動く数週間の出来事が綴られている。

舞台は一応北京ではない地方都市(でも、きっと撮影は北京なんだろうな)。両親と姉が一人(このお姉さん・安静がなかなか別嬪さんでいいんだなぁ)。
目下彼女が一番頭を悩ましていることは、学年末にクラスで選ばれる「模範生」に自分が選ばれるかどうかということ。
自分自身はどうでもいいのだけれど、母親から受験に有利だからと模範生に選ばれるように口うるさく言われているのが気になっている。それに、自分には自信があるけれど、自分が誰からも好感を持たれているのかいまいち自信がない。まっすぐで不器用な彼女のことを好ましく思っていない同級生も少なからずいる。また、担任の先生も自分を高く評価してくれていない(いや、疎まれている)のを薄々感じている。それでも彼女は模範生に選ばれるためにそれらの人たちにゴマを擦る気は全く無い。ここはありのままの自分で勝負(?)してみたいのだ。

安然のように生きられたらどんなに素晴らしいだろう。
自分自身に自信を持って、自分の正しさを信じて歩いていく。ほんとうに眩しくて羨ましい。それに引き替え、わが身を思うとすっかり薄汚れて情けないこと甚だしいね。恥ずかしい。

安然を見守る母親と姉は現実的だ。模範生に選ばれるためにこっそりと策を巡らすお姉さんの姿はほほえましい。そして、きっと安然はお父さん(朱旭)に似たんだろうな。娘が模範生に選ばれることや成績にはさほど興味が無く、彼女の素直で深い感受性とまっすぐな心を伸ばしてやりたいと考えている。
幾つかのエピソードを交えながら、とうとう模範生を選ぶ日がやって来る。
結局、模範生に選ばれた安然だが、安静の策に気付き深く心を痛める。そして、自ら模範生を辞退してしまう。ここまで来れば「立派」の一言。
なんだか嫌味の一つも付けたくなってくるけど、この映画の素晴らしいところは観ているこちら側にそんな気を全く起こさせないところ(もっとも安然と一緒にいたら息苦しいかもしれないけど、こっちは観ているだけだからね)。
彼女のいい所だけではなく、ある意味融通の効かないところや、とらえようによっては心が狭いなどのマイナス的な部分もさり気なく丁寧に描き込まれているのがいい。
そして思わず「がんばれ安然」って声を掛けたくなってくる。

同じ団地に住む幼子に在りし日の自分を見つける時の表情がいい。
また、エンディングも素敵なんです。観ているこちらも思わずスキップしたくなる。
安然がこの後、どんな女性に成長しいくのか興味がありますね。
嫌味の無い爽やかな映画です。もうご覧になるチャンスはないかもしれませんが、まずまずのおすすめ。

ここまで書いてきて、ひょっとしたら、この映画はこれからの新しい中国人民に対しての「安然のように言いたいことははっきり言う、だけど自分自身にはしっかり自信と責任を持って生きていきましょう!」というメッセージなのかなぁ(今までさんざん抑圧されてきてたからなぁ)、と思ってしまいました(深読みのしすぎかな?)。その象徴(?)が安然の好きな目立つ赤い服なんでしょうね(きっと)。

おしまい。