「北京好日」

おじいちゃんがいい!


  

シネ・ヌーヴォで観る「中国映画の全貌2002-3」も今日で7作目。今回が一番お客さんが少なくて20名ほど(ボクのイメージでは、いつものヌーヴォならこれでも多い方なんだけど...)。
この作品も「アイ・ラブ北京」「スケッチ・オブ・Peking」のニンイン監督・1992年の作品で、今日の「北京好日」の三作を称して「北京三部作」と呼ばれているそうだ。どの作品ともに共通しているのは、ちょっとクールに突き放したスケッチ風の作りだという部分と、カメラが一定のスピードで通りに面した街並みを映し出す手法かな。そして「辛口」と言うかちょっと「痛い」(それとも「冷たい」?)部分が入っていることでしょうか。

韓さん(黄宗洛)は、北京市内にある京劇の常設劇場に守衛さんとして住み込みで長く働いていた。でも、65歳を迎えて下も育ってきたことだし、定年退職を迎える。自分ではまだまだやれると思っているし、自分なりにかなり役に立っているとう自負もある。でも、とうとうお役ご免の日がやって来た。淋しさを隠せないまま、家財道具と共に劇場を去る。
老人用の胡同に住むが、突然与えられた自由な24時間を完全に持て余している。そんなある日、練炭工場で下働きをするダウン症の少年と知り合う。そして、この少年に連れられて訪れた天壇公園の一角で目にしたのが、リタイアした老人たちが集まる京劇の同好会(?)。この少年はよく、この素人の京劇の曲を聴きにきているようだ。
公園の寒空の下では、思うように練習もできないし、集まってくる人数もしれている。そこで韓さんは街の公民館に掛け合って「老人京劇クラブ」を公民館に作ってもらい、自分では演ずることをせず裏方に徹し、皆に京劇を楽しんでもらうことにする。韓さんの肩書きは班長だ。
しかし、様々な考え方を持った老人たちは次第に我を張り合うようになり、自然とまとめ役の韓さんに対する風当たりが強くなってくる。京劇に対する志も、取り組み方も、接し方も皆ばらばらなのは仕方ない、その中で利害関係をやりくりする韓さんの苦労も並大抵ではないのだが...。韓さんも負けず嫌いで、曲がったことが大嫌い。そんなちょっと完璧主義な部分が波風を大きくしている部分もある。
そして、とうとうふとしたことがきっかけで「老人京劇クラブ」が空中分解。韓さんは班長の腕章を床に投げ捨て、班長を辞めてしまう。

それでも、この冬の間に韓さんは失った「やりがい」を取り戻したし、何より世話好きな韓さんは自分が世話を焼くことが出来るクラブの存在が嬉しくてしかたなかったんだ。
公民館を失って、再び天壇公園に戻った老人たちの練習を壁の陰から聞いていた韓さんは、再び彼らに向かって歩きはじめる...。

北京の下町に住む老人たちの交流を描いた作品。韓さんを演じた役者さんの、いつも苦虫をつぶしたような表情がなかなかいいんです。彼が堅物なんだけどいかに仕事に熱心で世話好きなのかを、冒頭の劇場のシーンで、観ているこちらに伝える導入は「さすが」と唸らされる。巧いなぁ。
「老人京劇クラブ」設立までに彼が役所を回って奔走したはずなんだけど、そのへんがあっさり飛ばされている脚本もいい。そして、次第に韓さんが「やりすぎて」しまうのも手にとるようにわかり、いいなぁ。だけど、こんな人いるよね、きっと。
最後の最後に、韓さんや「老人京劇クラブ」がどうなるのかはわからないけれど、きっと上手くいったんだろうなぁ。そんな予感がします。

「北京三部作」ではこの作品が一番最初に撮られてんだと思うけど、ちょっとまだ試行段階というか、三作の中ではパンチが効いていない作品だと思う。ちょっとクールさに徹していないと言うか、ひねりが足らんと言うか...。
次回は何時観ることが出来るのか不明ですが、チャンスがあれば観ても損はない映画でしょうか。

おしまい。