「スケッチ・オブ・Peking」

埃っぽい北京で暮らす人々は...


  

また来てしまったシネ・ヌーヴォ(今後も何回かは足を運ぶ予定だけど)。
今回ご紹介するのは、先日観た「アイ・ラブ北京」を撮ったニンイン監督の作品(1995年)。
平日の18:40からの回だというのにそこそこ入っている。ぎりぎりに到着したボクはヌーヴォでの自分の指定席(!)に座れなかった。

ちょっと「痛い」映画だ。

北京の城西区にある小さな警察署が舞台。
戌年のありふれた冬の数週間、この警察署とその管内で起こる日常的な事件が、ここの警察官クワンの行動を通して「スケッチ」されている。カメラの眼には私情は挟まれず、淡々とクワンの日常が映しだされる。
別に世間を揺るがすような大きな事件が起こるわけではない。管内も北京の下町の風情が色濃く残っている一帯。胡同がまだ残っているが、一角には再開発された高層アパートも建てられている。

映画の最後の最後まで、ちょっと突き放したところがあるクールな視線でスケッチが続く(内心、どんな終わり方をするのかハラハラしていた)。
クールな描写だけれど、いつしかボクはクワンに同情していく。そんな働き詰めで身体は大丈夫なのか、奥さんや子供から愛想を尽かされないか、なんてね。それともクワンの心の中にある何かが崩壊しないか、と。

日本に住むボクにとっては、クワン(いや、中国の警察と言うべきか)の仕事の進め方はいささか高圧的で強引だ(これでも、きっとかなりソフトな描写なんだろうな)。
それでも、犬に噛まれたと届けがあれば野良犬狩りに出かけ、ストーカーを捕まえたと通報を受けると署に連行して取り調べる、外回りの刑事から賭博を開帳していた男の身柄を受け取り、この男から調書を取る。誰かの嫁姑が喧嘩をしたと聞けば仲裁に出かける。これじゃぁ、ほんと街の何でも屋さん。
おまけに担当地区の委員会には頻繁に顔を出して、地区委員のおばさんたちにいろんなことで協力を求めなければいけない。いや、ほんと大変な仕事だ。
野良犬に噛まれてしまい、狂犬病を予防する注射を定期的に受けなければならないエピソードには笑ってしまう。
家に帰れば、奥さんからはさんざん嫌味を言われてしまい、たまの休みにのんびり休むこともままならない。奥さんが子供に語る「トラのお話し」はケッサクだ。

そんな愛すべき(?)クワンにちょっとした手違いから不幸が訪れてしまう。 これは、あまりにも「痛い」よ。
でも、クワンには悪いけど「世の中ってこんなものかもしれないな」とも思ってしまう。
ちょっと心の中の整理がつかないまま映画は終わってしまう。
北京の市井の暮らしぶりを知るにはいい映画だと思います。

おしまい。