「ブエノスアイレス」

これからの恋愛映画のひとつの姿


  

2002年の最後を飾ったのは、ウォンカーウァイ監督の「ブエノスアイレス」1997年の作品。大阪九条のシネ・ヌーヴォで開催中の「中国映画の全貌2002-3」での上映。一つ前の「再見のあとで」の時は1/3ほどの入りで、それでもヌーヴォにしたら多い方だと思ったけど、「ブエノスアイレス」では続々と人が集まり(しかも9割以上が女性)補助席も出る大盛況だ(前の方には若干の空席はあったけど)。ウォンカーウァイ監督なのか、この映画の魅力なのか、それともレスリーかトニーレオンか...。凄いね。恐れ入りました。

この手のストーリーはちょっとね。
映画が始まってすぐに「帰ろうか」とさえ思ってしまった。

「美少年の恋」(ダニエルウー、テレンスインなど)の時もそうだったけど、生理的に受け付けない。ウーム。

それはさておき、この映画は凄い。
レスリーとトニーレオンが香港の裏側にあるアルゼンチンのブエノスアイレス、その下町で繰り広げる愛憎劇だ。
こんなに遠くまで流れてきた二人なのに「やりなおそう」の一言が怖くて、トニーはレスリーを突き放してしまう。したたかさのあるレスリーはブエノスアイレスの街角でも、如才なくよろしくやっているのに、どこか生真面目なトニーは不器用にこの街での生活をこつこつと作り上げようとしている。
そんなレスリーは喧嘩をして、両手の拳をケガしてトニーのアパートに転がり込んでくる。そして二人の生活はまた振り出しに戻ろうとするのだが...。
トニーの勤め先の中華料理店でふと出逢った若い台湾人チャンチェン(「グリーンデステニィー」でチャンツィイーと恋に落ちる盗賊の頭をしていましたね、随分雰囲気が違い、最初は同一人物だとは気が付かなかった)。この二人広東語と普通話でどうやってコミュニケーションを取っていたのだろう(まぁそれはどうでもいいけど)? 彼の存在がトニーに微妙に影響を与える。
帰る場所がある。何かを成し遂げようとする意志もあるチャンチェンの姿がトニーには少し眩しく、そしてそっと背中を押してくれる。落ちるところまで落ちて、流されるところまで流され続けたけれど、家へ(香港へ)帰ってやりなおしてみようか、と。

トニーとレスリーがゲイである必然性は全くないと思う。トニーを男だと思い、そのトニーが入れあげて腐れ縁にすらなった女がレスリーなのだ。この二人が男であることによって、ブエノスアイレスという街で香港人が繰り広げるドラマに奥行きが出たのかは疑問。ただ。当時の香港にレスリーよりも魅力的なしたたかで猫のような女優さんがいなかったのかな。
ストリーがあって配役したのか、それともキャスティングが最初にあったのだろうか?

二人を男女と置き換えてこの映画を思いだしてみると濃厚ななかなかいい「恋愛映画」だったかもしれない。
イグアスの滝の展望台に一人立ちすくみ、飛沫を浴びてみたい。そんな気にさせる映画です。
時にモノクロになり、ざらついた画像になるクリストファードイル独特のカメラワークもお楽しみいただけますし、ウォンカーウァイ監督が好きな鏡も随所に散りばめられています。トニーが香港を思い出すときに画面の上下が逆さまに映し出されるのが、芸が細かいというか何と言うか...。
何故か女性陣には大好評のこの作品、ビデオもDVDもあります。生理的嫌悪感があれば別ですが、観ても損のない映画だと思います。