「遥かなるクルディスタン」

民族問題は難しく、根が深い


  

アジアとヨーロッパの境界にある国。トルコ。
沢木耕太郎は「深夜特急」の中で、アジアとヨーロッパの違いを「お茶をChaと発音するかTeaと呼ぶかので分かる」と書いていたような気がする。その説によれば、イスタンブールはアジアの一部だ。
まだ行ったことがない国。一度行ってみたい。ボスポラス海峡をひなが一日眺めていたいものです。
ボクが勝手にどこかのんびりとした国だと思っていたトルコ。そんなトルコの暗部を鋭く切り出した映画が、今回ご紹介する「遥かなるクルディスタン」。

トルコは表向きは単一民族国家となっているが、シリアやイラン、イラクなどに国境を接する西部山岳地域にはクルド人と呼ばれる独自の文化と言葉を持つ民族が生活しているそうだ。
クルド人たちは国を持たない民族で、主に生活している地域は何カ国かに分割されてしまっている。独立を求める運動も活発に行われているようだが、アメリカやロシアなどの思惑も複雑に絡み合って、上手くいっていないのが実情なのだそうだ。
トルコ政府はクルド人に対して、クルド語を使うことを禁じ、トルコへの同化政策を取っている。同化政策とは都合のいい言葉で、簡単に言うとクルド人が住む集落を圧力や武力で破壊し、そこに住めなくしてしまうことだ。生活の場を無くしたクルド人たちはイスタンブールに出てくるが、トルコ語を話すことも出来ず、定職に就けず、仕方なしにスラムに住まい、社会の底辺を蠢く仕事をするのが精一杯。
そういうトルコにおけるクルド人の現状を描いたこの作品だが、映画の中ではただの一度も本人たちから「クルド」という言葉は出てこない。しかし、様々な形でトルコの社会から虐げられている彼らの姿が映し出されている。

地方からイスタンブールへ出てきた青年メフットが主人公(観ているボクが悪いのか、はっきりとした説明がないのが悪いのか...、ボクはこのメフットはクルド人だと思っていたのだが、七藝でもらったチラシにはそうではないように書いてある、今でもどうなのかよくわからない)、ようやく水道局で臨時雇いの仕事にありついたばかりだ。クリーニング店に勤めるかわいらしいガールフレンドもできた(彼がいつも手にしている道路に敷設された水道管が破裂している箇所を探す「管」は一見の価値アリ!)。この彼女の一途で献身的な愛にはちょっと驚かされるけどね。
ある日、サッカーの国際試合がありテレビでその様子を見ていた男たちはトルコの勝利に酔いしれ、街へ繰り出し暴徒と化す。そのとばっちりを受けたのがクルド人。この騒ぎの中、暴徒たちに襲われそうになったメフットは、クルドの活動家ベルザンに助けられ一緒に逃げ事無きを得る。これがキッカケになり、メフットとベルザンは仲良くなる、年齢は10ほど違いそうだけど。そしてメフットは今まで見えなかったクルド人に対する様々な迫害を目にし、身をもって体験するようになる。

今まで全く知らなかったことを教えてくれる、物語りでありながらどこかドキュメンタリータッチでもあるこの作品。敢えて詳細は記しませんが、なかなか見ごたえがあります。もちろんこの映画で描かれていることが100%真実であると無条件で受け入れるワケではありませんけどね。
地球上には、いいことも悪いことも含めて、まだまだボクが知らないこと(知らされていないこと)がたくさんあるんだなぁ! そして考え方だっていろいろある。北朝鮮やイラクが本当に「悪の枢軸」なのかどうかもわからない。でも、少なくとも「こんなことがあるよ」「こんな考え方があるよ」と知ることが出来る社会に住んでいるだけ恵まれているのだと思う。
この映画「アレクセイと泉」「プロミス」に続いてBOX東中野で公開された映画です。このBOX東中野はなかなか着眼点がいい社会派(?)の作品を紹介してくれるちょっと異色の映画館です。

ボスポラス海峡を眺めながらのんびりお茶でも、っていう気分は吹き飛んで、少し暗い気持ちになってしまう映画ですが、チャンスがあれば是非ご覧ください。
十三にある第七藝術劇場でもうしばらくモーニングショーで上映しているはずです。

おしまい。