「MON-ZEN」

禅が持つ不思議な魅力とは


  

今回観てきたのはドイツ映画の「MON-ZEN」というへんてこな作品。
この映画がどうへんてこなのかは本来「観てのお楽しみ」なのだが、残念な事にもう上映は終了してしまった(ごめんなさい)。ちょっとマイナーな作品なのでビデオやDVDになるかは疑問。どこかで再映されるのを待った方がいいかも。
シネ・ヌーヴォで「エブリバディ・フェイマス」を観たときに流れた予告編を観て「おっ、これは面白そうだ」と思ったものの、その日はレイトまで頑張る気力が無く帰ってしまった。そこうしているうちにたまたまインターネットで小林千枝子さんという方が書いている【辛口映画評】でこの映画が取り上げられているのを見かけてしまい、どうしても観たくなり、上映最終日にレイトの時間に合わせてシネ・ヌーヴォに足を運んだのでした(こんなことも珍しい)。

ドイツに住む冴えない中年の兄弟が主人公(おなかも出ているし、髪の毛も淋しくなっている)。
兄のウーヴェはシステムキッチンの営業をしている。一方、弟のグスタフはなんとドイツのど真ん中で「風水師」をしているのだ、家に上がりこんで妖しげな方位磁石のようなもの(これ、正しくは何と言うんだろう?)を振りまわして「方角が悪い」だとか「気が逃げてしまう」「ここは王の場所です」なんてわめいている(こんなんで商売が成り立つのか一抹の不安が...)。映画の前半はこの兄弟のドイツでの私生活がわりと丁寧に描かれている。
そして「やっぱりな」って感じでウーヴェは奥さんから離縁状を叩きつけられてしまい、ある日、家に帰るとそこはもぬけの殻。奥さんと子どもは彼を置いてどこかへ逐電してしまったのだ。ウーヴェは弟のグスタフに泣きつく。グスタフは長年計画していた日本の禅寺での修行へ明日出発することになっていて、その準備に余念が無いのだが...。結局、泣きつかれたグスタフはウーヴェを伴って日本への飛行機に乗ることになってしまう。

二人が修行をするのは石川県にある曹洞宗の総持寺というお寺。でも、二人が乗った飛行機は当然成田へ。東京のホテルに一泊して石川県へ向かうはずの二人だったが...。
ホテルで旅装を解き、街へ繰り出した二人が見たTOKYOとは、ラッシュアワーが吐き出す人の洪水、意味も無くケイタイでしゃべりまくる若者たち、愛想笑いを浮かべて一斉にお辞儀をするデパートの店員たち...。あげくにぼったくりのバーに入りこんでしまい持ち金はほとんど巻き上げられてしまうし、帰るホテルがわからなくなってしまい(いわゆる「迷子」だね)、とうとうそのへんのレゲエのおっちゃんを見習って、墓地でダンボールで一夜を明かすはめに(このへんだけ学習能力は高いねぇ)。
翌日、デパートでテントを万引き(!)するまでは良かったが(何が?)、ウーヴェとグスタフは街の雑踏の中ではぐれてしまう。腹を空かせたグスタフは回転寿司のカウンターに座るやエビを何皿か平らげ、食い逃げしてしまうのだ(そうか、欧米人の感覚からすれば回転寿司は食い逃げに関する店側のガードは緩いんだな)。お前ら、ホテルに置いてきたパスポートや航空券はどうするんだ?
幸い、相撲取りと同棲している(!)ドイツ人に拾われ、無事に石川県へ旅立つ二人でした。

でもなぁ、場内が静かなんだ。ウンともクスリともしない。ヌーヴォにしては多い30名ほどの入りなんだけど、反応が無い。これってかなり不気味。独りで笑っているボクは完全に浮いている!

ようやくのことで総持寺に辿り着いた二人の修行が始まる。ここから、この映画のホンとの始まりなかもしれない。そして、明らかに二人は変わっていく。 いやぁ、禅というのはボクたちは知ってそうで知らないだけど、ほんと何か不思議なパワーがあるんだなぁ。そして、この二人がこんなに苦労をしてまで体験してみたいと思わせる魅力があるわけなんだ。
一見無意味とも思われる掃除。お経を上げる際や食事の際の様式美。托鉢の修行に、住職との問答。お寺で繰る返される日々が丁寧に、克明に描かれている。そして、その各々に立ち向かう兄弟の姿と二人の部屋の中で語り合う姿がいい。実にいい。
このパートはコメディでも芝居でもなく、ドイツ人が見た禅寺の姿が素直にドキュメンタリータッチで描かれている。そして、最初は全く興味を持っていなかったウーヴェもすっかり染まり、グスタフよりも先にこの修行に馴染んでしまう。
何かにつけ要領が良くて飲み込みが早い兄に対して、幼少時代からコンプレックスを感じていたウーヴェはここでも、完璧主義が災いして兄の後塵を拝してしまう。しかし、お寺の偉い人との会話からいつかウーヴェも行き方について学んで行く。いつしか作務衣姿も堂に入っている。

ラストは修行が終わり、寺を後にした二人が東京に戻り、テニスコートのテントを建てて、二人でお経を上げる。
この二人、無事にドイツに帰れたのか? それとも今でも渋谷のどこかで野宿しているのか?

床の雑巾がけがキーワード(?)になっているこの映画、傑作。おすすめです。

おしまい。