「エス[es]」

この男が特殊なのではない


  

東京へ行ってきました。
仕事が長引いて、前の晩に観る予定の「On The Way」を見逃してしまった。先月も「キル・ミー・レイター」を見逃したというのに! でも、東京へ仕事で行っているので文句は言えない。仕方ないね。
先月の「キル・ミー・レイター」はどうかなと思っていたけど動物園前のシネ・フェスタで近日中の公開されるようなのでホッとした。「On The Way」はどうかな? するならヌーヴォかミュージアムスクエアのレイトのような気がします。下手すると大阪へは来ないかもしれないけどね。
結局、この晩はチャッピーを誘って晩飯を食べに行った。このところ毎月顔は会わせていたけどゆっくり話すのは久しぶり。元気そうでした。もうすっかり東京にも慣れて(?)、仕事にも慣れている(みたい)。

さて、蒸し暑い渋谷で観てきたのは密かに話題が先行しているドイツの作品「エス[es]」。
土曜の早朝9:20からの上映にも関わらず、長蛇の列(ちょっと大袈裟)。200名ほどの劇場に7割ほどの入りでした。大学生ぐらいの若い方が多かったですね。この回が終わってロビーに出ると、そこには更に長蛇の列(今回はほんと!)が出来ている。この映画人気があるんだ!

主演はドイツ映画と言えばこの人という感じのモーリッツ・ブライプトロイ。「ラン・ローラ・ラン」にも「ノッキング・オン・ザ・ヘブンズ・ドア」にも出ていましたね。外人の方は顔を見ただけではよくわからないんやけど、この人ひょっとしたらヨーロッパ人種ではなく、トルコ系の方なのかなぁ、そんな気がしました。
そして、この人の相手役で謎の美女マレン・エッゲルト(なんとドイツ的雰囲気の名前だ!)が抜群にいい。いいなぁ、一目で惚れてしまいました! あんまりこの映画の筋には関係ない役やけどね。今後に注目!

ドイツのある大学で実験が行われる。その実験に参加してくれる被験者を新聞広告で募集している。2週間の拘束で4,000マルク(およそ100,000円)の報酬だ。この広告を目にした希望者が教室に集まる。
各種の検査が実施され、20名ほどの被験者が選ばれる。そして、看守役と囚人役とに分かれて模擬監獄で2週間の日々を過ごすという実験が開始される。
なんとも退屈な実験のように思われるのだが、さにあらず。何の罪も犯していない囚人役の人々はどんどん卑屈になっていき、看守役の男たちは意味も無くどんどん増長して、囚人をいびることにさえ快感を覚え始めるのだ。

この映画を観ているこちら側がなんか背筋が薄ら寒くなってくる。ヒトってこんなに変わっていくんだ。与えられた役目や環境によって...。なんか恐いなぁ。
実験が開始されて数日で囚人役の二人が異常をきたしてリタイア(即、入院)してしまう。残された囚人役の男たちは常軌を逸し始めた看守役の「残虐」な行為に耐えるしかないのか。
そこへ、起こるべくして事件が起こる!

それにしても不思議なのは、モーリッツ・ブライプ演じるタレクがもと新聞記者で今回の実験に取材が目的で参加していることや、彼と同室の38番の男が密命を帯びた少佐であることなどがこの映画のストーリーの中でちっとも役にも立っていないことだ。役に立っていないどころか意味さえなしていない。これはちょっともったいないぞ! それなら、事前にこの実験に参加する男達の人物描写をもう少し詳しくした方が良かったんとちゃうかな。20名ほどが被験者として参加して実際にキーを握るのは5名ほどだもんな。
それはともかくとして、看守役を与えられるや否や豹変する航空会社の地上スタッフの男。こいつは凄い。観ていてぞっとするんだけど、思うのは「この男が特殊なのではない」ということだ。すなわち、ボクにもあなたにもこの男と同じように役柄や環境によって変わってしまう可能性があるということだ。まぁ、なんと恐ろしい!

大阪では8/17から茶屋町のテアトル梅田で上映予定です(「ピンポン」の後ですね)。
「何かいいことないかなぁ」ってぼぉっとしているあなた。休みの日に何もすることがなくて壁向いて膝を抱えているあなた。この映画を観ないとソンですよ。(まっ、それほどでもないけどね)

おしまい。