「死んでもいい経験」

昼間のサンテレビを見ているような...


  

先日の夜半に突然、暗雲が立ち込め、それまで吹いていた涼風がピタリとやむと、いきなり雷鳴がとどろき、空からは大粒の雨が激しく落ちてきた。
「久しぶりの雨で植物たちもさぞ喜ぶだろう」なんて流暢に構えていたら、ガラス窓を叩く雨は激しさを増し、空を駈ける稲妻もいっそう輝く。
もう寝床に入ってウトウトという雰囲気ではない。ざーと降りつける雨音に耳を澄ましていると、その刹那、雨音は乾いた音に切り替わる。パラパラなんて、生易しい音ではなく、がんがんガラス窓といい壁といい屋根といい打ち付けてくる。
恐る恐る、窓から外に首を出すとあたりは一面の氷。なんとヒョウが降りしきっている。地面の一部は白くなっている。直径が2〜3センチほどだ。激しく狂ったように空から落ちてくるヒョウを見ているのは、なんとも不思議なもんだ。
「ガラス割れないかな」と心配になってくる。
そして突然、雷雲は彼方に去り、あたりには静寂が戻ってくる。ただ、雨のしずくがしたたり落ちる音がするのみだ。再び、風が出てきた。それはもう「涼風」ではなく「冷風」だ。

翌朝、あたり一面には昨夜のヒョウで引きちぎられた若葉が落ちている。
おぉ、台風一過というか、こんな晩に山にいなくて良かった。

さて、古い韓国映画の特集上映会を観る機会に恵まれた。キムギヨン監督の作品だ。この日は「死んでもいい経験」と「下女」を観る。
会場は梅田の阪急東通商店街の外れにある「PLANET studyo + 1」。ここでは昨年台湾の映画を2本観ました。常設の映画館ではなく、なんか大学の映画サークルにある試写室といった趣ですね。
お客さんは意外と多くて20名はいらっしゃったでしょうか。先日の「大阪韓国映画祭」よりもコアでディープな韓国映画ファンなのでしょうか?(それじゃぁ、ボクは...?)。

さて、映画をご紹介しましょう。

舞台はソウル。
オリンピックを目前に控えて、高度成長を続けている当時の韓国。その象徴として、漢川(ハンガン)にかかる吊り橋が何度も何度も繰り返し大写しになります。
先日観た「E.T.」では20年前にも係わらず、その古さをあまり感じなかったのですが、この映画に写されるソウルやこの街を歩く人々には、思わず時の流れを感じずにはおれません。
それだけ、ソウルという街にも韓国の人々にとってもこの20年間の時の流れは大きかったのでしょう。

そして、この映画の底流にあるテーマは、韓国の人々が感じている「結婚観」であり「夫婦感」であり「嫁感」なのではないでしょうか。現在はどうかわからないけれど、少なくとも「当時」はこの映画を観て、違和感は感じなかったんでようね。
たとえば、結婚して5年になるのに子供ができなければ、奥さんはそれを理由に離縁されても文句は言えなかった。それは、奥さんは嫁ぎ先にとって子供を生産するマシーンとしてししか期待されていないことを意味している。
そんなことが、伝わってくる作品です。
しかし、現在この映画を観てみて、どうだろう? 監督の言いたかったことは伝わってくるけれど、この監督の意図とは全く違う視点からしかこの映画を観ることはできなくなっているのではないでしょうか。

二組の夫婦と一人のこぶつき女性のお話し。 三人の女性たちは偶然、同じ自動車学校で免許の取得に励んでいる。そのうちの一人は若奥さん。彼女は、教習所内での接触事故がきっかけで取っ組み合いの喧嘩をする二人の女性を目にする。
そして、偶然スーパーで買い物をしている時に、喧嘩をしていたこぶつき女を偶然見かけるのだ。しかも、若奥さんはこのこぶつき女にスリの濡れ衣をかぶせられてしまうのだ。そして、この窮地を救ってくれたのが、もう一人の喧嘩の女だ。こうして、若奥さんは、自分より10〜15ほど年上の女と知り合いになる。
そして、物語は大きく動き始めるのだ。

若奥さんは、結婚して5年になるのに子供ができないことを理由に、突然離縁を申し渡されてしまうのだが、この離縁の裏にはこぶつき女の影があった。若奥さんの旦那は、結婚する前からこのこぶつき女と関係を持っていたのだ。先日のスーパーでのスリ騒ぎもこぶつき女が仕組んだワナだった。若奥さんを慰める年上の女。自分の身の上話しを若奥さんに聞かせる...。そして、二人は意気投合して交換殺人を申し出るのだ。年上女がこぶつき女を殺し、その代わり若奥さんが年上女の旦那を殺すという段取りだ...。

この映画を観ているボクの興味の焦点は、残念ながらストーリーの展開にはない。それは、80年代当時のものの考え方だったり、ファッションであったりする。
年上女の旦那と若奥さんが逢引するホテルはソフィテルではないだろうか、なんてね。
残念ながら、映画というよりもテレビドラマを見ているような気にさせられる。昼間にサンテレビでやってそうな感じやなぁ。
ラストの収め方がまた気に食わないというか、何というか。

皆さんはこの映画を見る機会は無いでしょうから、さらっと読み流して下さいね。
次回は、同じ日に続けてみた「下女」をご紹介します(今回は意外と長いね)。

おしまい。