「化粧師・KEWAISHI」

ほろっとくる後口の良さ


  

顔の化粧はいつかはげ落ちて地が見える、心の化粧は自分でするしかないんだよ

こんな商売がほんとにあったのかどうか知らないけれど、大正の末期、椎名桔平が演じている小三馬(こさんば)は女に化粧を施すことで生業を立てている。言うなれば美容師さんみたいなものですね。自分の店にお客が来ることもあるが、ほとんどはお客さんの家か職場まで行く出張だ。写真屋と組んでいる仕事もある。お客さんは、良家の奥様や娘さん、それに水商売のお姐さんたちだ。

時代設定のせいもあるのだろうけれど、時代劇なのか現代劇なのかちょっと中途半端。小三馬は職人風の服装に革靴を履いているところがなんとも。しかもこの時代に自転車はあったのだろうか?
それはさておき、化粧を施されることによって女は変わるのだなぁ、と妙に感心してしまう。

小三馬の客を中心として、細かいエピソードと近所に住む天麩羅屋の娘(菅野美穂)が彼に恋慕するエピソード、そしていしだあゆみの家に奉公へ来ている池脇千鶴のエピソードが絡まり合ってストーリーを成している。
このストーリーそのものに目新しさは全くないのだけれど、小三馬が乗る自転車の後ろで菅野美穂涙ぐむシーンと、いしだあゆみが池脇千鶴のためにものも言わず着物を届けて立ち去るシーンには、ちょっとほろっとさせられました。

問題点を指摘するなら、小三馬の人間としての魅力が観ている側にはあまり伝わってこなかったことだろう。
なぜ、田中邦衛が年老いた身体を張ってまで彼を助けようとしたのか。なぜ「小三馬さんの耳になりたかった」と菅野美穂がつぶやくのか。ボクには全く理解できなかった。
それまでのシーンでほんの少しでも小三馬の人間性を表すエピソードを入れるだけでだいぶこの映画の印象は変わったのではないでしょうか。

ボクは芸能音痴なので、この映画で池脇千鶴を初めて知ったのですが、彼女はこの役にはどうかな。もっと化粧で変身できる女の子の方が良かったのでは? 岸本加代子の変身ぶりは「お見事!」 またこのところ映画でよく見かける柴崎コウもいい感じだったのになぁ。

それはともかく、難しいところはなく肩の力を抜いて楽しめる映画です。
土曜の昼下がりという時間帯もあってか、梅新の梅田東映の座席が半分以上埋まるという動員(ほとんどが中年以上の女性)。おみごとというかご立派というか...。隣の東映パラスはチケットを買う人で長蛇の列(オーシャンズ11)、5階の東映パラス2も満員(無問題2)。両館とも「今から入られても立ち見です」と拡声器がうなっていました。東映にとっては最高の土曜日だったようですね。

次はレスリー・チャンの「ダブルタップ」をご紹介する予定です。
おしまい。