「ダンス・オブ・ダスト」

まるで無声映画のような


  

続いてパラダイスシネマでレイトショーで観たのが、これまたイランの映画「ダンス・オブ・ダスト」。お客さんは半分以下に減って20名ほどでした。それでもレイトショーにしたら良く入っている方です。

この映画は、セリフが極端に少ない上に、ナレーションや説明がない。さらに監督の意向で字幕がない。ボクたちは注意深く登場人物の表情を見守ることになる。また、ラジオから流れる音楽が数秒だけ耳に届くことを除けば。効果音や音楽もない。
それでも、大体の意味や話しの流れは解る。でも、解釈の仕方は、この映画を観るた一人ひとりによって異なるだろうな。ある意味ではそれが監督の狙いなのかもしれない。

レンガ製造村。レンガを作るのに適した季節になると、どこからか労働者が集まってきてレンガを作る共同作業が始まる。レンガ用の土と水を混ぜて粘土を作り、それを型にはめて、数日間天日で乾かす。だからレンガに適した季節は雨が降らない乾期なのだろう。乾かしたレンガは巨大な窯で何日かかけて焼き上げるのだ。そんな作業が延々とスケッチされる。
主人公はこの村に来ている少年。面影はまだ子供だけど、働き手としてはもう大人と一緒だ。おそらく10〜12才ほどだろう。土を足でこねたり、粘土を型にはめる作業をもくもくと行っている。

そして別の家族に少年と同じくらいか、それとも少し下の少女がいる。二人は直接言葉を交わすわけではないのだけれど、淡い心の感情が行き来している。このあたりは微笑ましいね。

恐らく何万個という単位であろうレンガが焼き上がった。街からトラックがやって来て、窯からレンガを積み込んで行く。どうやら積み込みが終われば、仕事は一段落するようだ。男たちは汚れきった身体を綺麗にぬぐい近くの商店へ出掛ける。たぶん給料が支払われたのだろう。金でできた装飾具を子供に買ってやったり、食料品や日用品を買って帰る。
そして、また土をこねて粘土を作り、型にはめる。延々と続く作業の繰り返しだ。やがて、また何万個ものレンガが、天日の下で乾燥され、窯入れを待っている状態にまでなった。でも、季節の変わり目は無情。後もう少しというところで空は曇りはじめ、やがて雨が降り始める。大地に降る雨は乾いたレンガの山にも降り注ぎ、レンガはもうレンガではなくなり、ただの土に戻って行く。

別れの季節がやって来た。少女の家族は仕事を求めてまたどこかへ旅立っていくのだ。

おしまい。