水上のパッサカリア

海野碧 光文社 9784334925413



  

ほんの少しだけ縁があり拝読させていただく。
「第10回日本ミステリー文学大賞新人賞」作品。

もし、新人賞の受賞作だと知らなければ、新人が書いたお話しだとは思わなかったに違いない。それほど書きなれた、筆の立つお話し。
導入部分、そして主人公のキャラクターなど、まるで「猟犬探偵」 「セント・メリーのリボン」の稲見一良のお話しを彷彿とさせ、知らず知らずのうちにグイグイと物語りの中に引き込まれてしまった。
そして、結構束がある単行本であるにもかかわらず、あっと言う間に読み終えてしまった。
満場一致で授賞が決まったのも頷けます。はい。

ただ、惜しいなと思ったのが、主人公である大道寺勉のバックボーンが、悪くはないのだけどちょっと拍子抜けしてしまうことと、メインになる事件の解決方法も「あれ?」っと思ってしまうことかな。ただ、それについても許容範囲。
サバイバルキャンプでの苦労話をもう少し紹介出来ていれば、もっと納得できたのになぁと...。ここで勉がどれくらい苦労して、どれくらい成長したのかをもう少し描いてくれないと、元から凄い男だったのか、それとも米国暮らしで変身したのかがわからない。それがわからないと、お話しそのものの土台が、どうもウソ臭くなってしまうんだなぁ...。
もうひとつ、ラストのどんでん返し(?)も何だかな。ここはもう少し別の動機が欲しかった。

それにしても、やっぱり生活に困らなくて、使い切れないほどお金を持っているという設定は羨ましい。
別にボクだって贅沢をしたいわけでもなんでもない。でも、どうしたら使い切れないほどのお金を手にすることが出来て、なおかつ、あってもなくてもどっちでもいい給料のために一生懸命仕事が出来るんだろう?
ボクも一度でいいからお金を全く気にしなくてもいい生活をしてみたいものだなぁ...。

読み終わって思ったことが二つあった。
一つは「パッサカリア」がどんな曲なのか、それが聴いてみたくなったこと(駅前第一ビルにあるワルツ堂で買いました)。
そしてもう一つは、大道寺勉を主人公にした続編が読みたくなったこと。こればっかりは、ボクにはどうしようもないから、作者に期待するしかないですね。

おしまい。