永遠の0(ゼロ)

百田尚樹 大田出版 ISBN:47783102



  

いつも流しっぱなしになっているNHKのラジオで紹介されていた。騙されたつもりで買った。買ったものの順番がなかなか回ってこなかった。ハードカバーだし、束もそこそこある。持ち歩くのにはもう少し体調が戻ってからが良さそうだ...。大きい本は読み始めるのに少々心の準備が必要なのだ。

ボクの父親は太平洋戦争に学徒動員で従軍している。もっとも、体格が良くなく、病弱だったらしく、国外へ行くことはなく、本土決戦に備え志摩半島で塹壕を掘っているうちに終戦を迎えたそうだ。今となっては、どうしてもっと詳しく話を聞いておかなかったのか悔やまれる。
母親の兄も招集されていてジャワから復員している。何でも計算ばかりしていたそうで「バナナは黄色いものより、黒くなって駄目になる寸前のものの方が断然上手い」なんてどうでもいいような話しをしてくれたのは覚えているけど、肝心の話しは何も聞いていない。
いずれももう鬼籍に入ってしまい、いまさら何も聞くことは出来ない。
ボクだけではなく、日本中が同じような境遇に置かれている。太平洋戦争の敗戦から60年が経過し、終戦当時20才の若者だって80を超える。もう、戦争体験のナマの声を聞くことが出来るラストチャンスになっている。

タイトルの「永遠の0(ゼロ)」から容易に想像できるように、「0」は「ゼロ戦」。太平洋戦争で活躍した海軍の戦闘機。この戦闘機に搭乗したある戦闘員のお話し。随所に戦闘シーンや戦況がこと細かに描き出され、このお話しがいわゆる“戦争もの”なんだと思い出される。でも、このお話しの深層に流れているのは人間愛だと思う。
「涙が止まらない」とまでは至らなかったけれど、孤高の搭乗員宮坂の姿に感動した。
戦争があろうとなかろうと、結局「人間は何の為に生きているのか」そんな根源的なテーマに向かって語られている。戦争という極限状態の下にいるからこそ、この根源的なテーマを突き詰めて考えるのだな。普通の生活をしていたら、様々な些細な出来事に右へ左へ流されてしまいがちなのだけど...。「どうして」とか「なぜ」というクエスチョンはいつも持ち続け、その答えを探すことが大切なのだとも思った。
この本を読むまで、ボクのスタンスはお話しの中に出てくる物知り顔の新聞記者・高山そのものだった。しかし、今の思いは少し違う。この本の中で展開されていることが100%正しいのかどうかはわからないけれど、宮坂や特攻に参加した搭乗員たちがどんな思いであったのか、ほんの少しだけわかったような気がした。

語られる手法が憎い。そして上手い。
読み始める前に持っていた躊躇は霧散して、実はその日のうちに読み終えてしまった。ランチを食べながら、そして地下鉄のホームのベンチで...。
確かにこの本は“戦争もの”。しかし、そんなジャンルに囚われることなく、少しでも多くの若い人にも読んでもらいたいお話しだと思った。
オススメ。おしまい。