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これが夢にまで見た(?)「金剛雲橋」 |
あれは06年の11月ごろだったか。07年用のカレンダーが届き、その中にある11月の写真を見て胸が掻き立てられた。
そこに写っているのは狭い渓谷をまたぐように付けられている吊り橋。こんな橋があるコースを歩いてみたいと思った。キャプションには「大屯山(韓国)」と書かれている。調べてみるとすぐにわかった。大田(テジョン)からそう遠くない場所に位置する山で高さは878mとそう高くなく、ロープウェイが架けられている関係でそう難易度が高くないコースだと。ただ、アクセスにやや難がある。
場所や位置関係は判明したものの、なかなか韓国にお邪魔するチャンスが巡ってこない。07年の6月にソウルへお邪魔するチャンスはあったものの、暑い時期には歩けない。うんうん唸っていると、とうとう年末に韓国へ行けそうだ。最近は映画への興味は薄れてきているものの、あの吊り橋を渡れるコースを歩けるのなら是非とも、少々のアクセスの悪さは差し引いてでも行ってみたい大屯山(テドゥンサン)。
関空を9:30に出発する一番の飛行機で韓国の仁川(インチョン)へ。
実はバタバタのうちに出発したので、詳しい行き方も、宿の手配もしていない。スーツケースに山歩きの用意一式を投げ入れてザックを担いできただけ(軽登山靴がかさばるし重いのが難点)。まぁ何とかなるでしょう。
仁川空港到着ロビーにある仁川市の観光案内所「i」のカウンター。ここはボクのような横着な旅人にも優しく接してくれるのが有難いし、実に頼りになる。
大田までは以前に行ったことがあるので空港バスがあるのはわかっていた。大田から大屯山までのアクセスを調べてもらい、宿の手配をお願いする。大田の西部バスターミナルから、全羅北道の完州郡にある大屯山道立公園までバスが出ているものの、一日に3便しかないことがわかった。出来るだけ明るい間に到着したいので、大田からはタクシーを奮発することにする。宿舎は大屯山観光ホテル(温泉)に決まる。一泊6,500ウォンだそうだ、温泉だから少し高いけどこんなものでしょう。
タクシーの料金は、大田からホテルまで35,000ウォン。それに運転手が使った携帯電話のGPSの通話料を3,000ウォンを別に請求される。時間は30分ほど。荷物も多くて重かったから、まぁ仕方ない。それにしても韓国の公共交通料金は驚くべき安さだと思う。ちなみに、仁川空港〜大田のリムジンバスは22,000ウォンでした(こちらは1時間に2本程度出てます)。
到着したのは大屯山観光ホテル。ホテルとは名ばかりで、国道沿いのモーテル程度(規模だけはデカイけど)。通されたのは、かなり広く12畳はありそうなオンドル部屋、そこにベッドが置いてある。広さだけは十二分にあり、部屋にもバストイレは付いている。周囲には申し訳程度のお土産店と食堂があるだけで、他には何もない。本当に静かな山間の集落。
フロントで大屯山のパンフを貰おうと思ったら「没有」(なわけないか)「オプッソヨ」と言われたので、すぐ近くにあった公園管理所まで出向いてパンフを貰う。その際に入山禁止期間ではないことを確認する(これ、重要です!)。まぁ、何人か下山してくる人の姿を見かけたからそんな心配もしていなかったけど...。ホテルのすぐ横を通り過ぎ急坂を上がるとロープウェイの乗り口、もう少し行くと入山ゲートがある、前日にここまで確認しておく。
温泉に入って疲れを取って、近くの食堂で山菜チゲとビールで夕食を取ったら、もう何もすることはない。一切ない。きれいにない。売店で缶ビールを買って、それを飲みながら持参した本を読む。それに飽きたら(実際にすぐに飽きてまったんだけど)、もう寝るしかない。20時にならないうちにぽかぽかと不自然に暖かい部屋でTシャツ1枚で寝てしまいました。
何かに「大屯山から見る日の出は素晴らしい!」と書いてあったので、早目にスタートする予定。
あまりに早くから眠ってしまったせいか(まぁ、オンドルが暑くて何度も途中で目が開いたんだけど)、それとも妙にコーフンしていたせいなのか、5時前にはもう眠れなくなって起きてしまう。カーテンを引いて窓を開けても当然まだ真っ暗。ただ、駐車場の地面が濡れている。目を凝らして見てみるけど、もう雨は降っていないみたい。屈伸とストレッチで準備運動をして身体をほぐす(部屋が広いっていいね)。
西宮では6時半ごろに明るくなるので、ここでもそれくらいには明るくなるだろうと見当をつけて、6時前にホテルの玄関を出る。もちろん、まだ真っ暗。どうだろう、気温はそんなに低くない。刺すような空気の冷たさもない。寒波が来るという予想だったけど、雪ではなく雨が降っていたみたいだし、上空は星も出ていない曇天で放射冷却もなさそうだ、5度くらいかな。
昨日のうちに調べているし、街灯もあるので入山ゲートまでは問題なく行ける。朝が早いのでゲートの事務所は閉まっている。従って、またしても入山料は払わない(すいません)。もちろんロープウェイはまだ動いていない。
ここからは漆黒の闇、そして恐ろしいほど静かで物音ひとつしない。地面が濡れているのがイヤだなぁ...。
ゴロゴロとした大きい岩が転がるコースを手探り足探りで歩いて行く。自分がたてる音だけしかしない。整備された広いコースなので、暗くてもコースを誤る恐れはない。足許にも気を使いつつ、目をこらしてコースを確認しながらそろりと歩みを進める。息も絶え絶えということは全くなく、暫く歩くと暑くなってきたので立ち止まってフリースを脱ぐ。
一度立ち止まってしまったら、何故かどっちに進めば良いのかわからなくなり、岩に腰掛けて明るくなるのを待つことにする。漆黒の暗闇から、やがて墨絵の世界に変わってくる。こうなると野鳥たちもようやく目覚めたのかさえずりが耳に届きだすと何だかほっとする。
突如と鉄パイプを組み合わせた階段が現れる。ここをクリアするとその後も何度か階段が現れそして「童心岩」という表示板。見上げるとちょっと変わった岩がある。ここを頑張れば童心岩の休憩所。その後すぐに分岐があり、左進めば山頂、右を選べばロープウェイ山頂駅を経て「金剛雲橋」。この「金剛雲橋」が今回のハイライトの吊り橋だから、もちろん右にコースを取る。すぐにロープウェイの駅である建物が目に入る。ブロック階段を経て建物の中に入り3階まで行くとコースに出るけど、もうひとつ階段を上がって屋上に出ると展望台になっている。ここからは下界が一望できる。すっかり明けて朝の明るさになった中を振り返ると、一面に霧の海が広がり、その海の中に高い峰が顔を出している。う〜む何とも幻想的な眺め。この眺めを観るだけでも歩いてきた価値はありそう。思わずうっとりしてしまう。
コースに戻り、ほんの少し歩くだけで「金剛雲橋」が目に入る。写真でみたままなんだけど、思ったよりも小さいような...。
すぐに橋のたもとまで辿り着く。深い渓谷をまたぐ形で取り付けられているのがわかる。全長で50mもあるかないか程度なんだけど、実はかなり怖い。ちょっとへっぴり腰でおそるおそる歩みを進める。黒いカラスがボクをバカにしているように鳴いている。雨粒と朝露で濡れている手摺り。手袋がぐっしょり濡れるのにも構わずその手摺りにしがみ付いてっしまう。後ろから誰かが来ているわけでもない、たった50mほどしかないのだから、味わって、見下ろして、ゆっくり歩いても良さそうなものなのに、途中で止まってしまうとびびってもう歩けなくなってしまいそうだ。ここから落ちると100mほど下にある谷底やねんなぁ...、なんて考えるともうあかん...。
ステップを幾つか上り下りしながら薬水休憩所を通過すると、次の関所「三仙階段」。これまた凄い!
こちらもパンフの写真で見ていたんだけど一気に50mほど上り詰める急角度の鉄階段。怖いのはこっちの方がよっぽど怖い。太いケーブルで支えられているのだけど、これまたびびってしまい、下を振り返る余裕はない。途中で少し揺れるんだから始末が悪い。もちろん、手摺りをすっかり頼って、竦みそうな心と足に気合を入れて、下を見ないように上り続ける。テーマパークのアトラクションよりよっぽど怖い(もっとも、テーマパークには行ったことないけど)。
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「三仙階段」を登り終えて振り返ると... |
二つのハイライトを通過すると、大屯山の山頂「摩天台」は巻き道を行く。北を向いた斜面にはほんの少しだけ汚れた雪がへばりついている。するとあっさりと到着。
そこには俗っぽい塔が建てられていて、雰囲気も景観もぶち壊しだけど、まぁ、価値観の違いだからボクが何を言っても仕方ないですね。
ザックを降ろしてペットボトルから水を飲む。ここからの風景も格別!
山頂からの戻り道、巨岩の上、ロープが渡してあり「すべり易そうだから注意しないとね」と思いながらロープを握ったその瞬間につるっと足を滑らせる。もし、ロープを掴んでいなかったらそのままどれだけ滑落していたかわからない。背筋が冷っと凍る。韓国のコースは岩盤の上を行くことも多いので、本当に注意が必要です。濡れた岩の上で滑りやすかったとはいえ、本当に危なかった!
来たコースを戻らず、山頂直下の分岐で別れて龍門谷三叉路を経て龍門窟から七星峰展望台、そして将軍峰を見上げる道をロープウェイ山頂駅までの周回コース。距離はたいしたことないですが、急角度の降下コースで結構きつかった。
ロープウェイの駅でゲートの係員に会うまで、途中は誰にも会いませんでした。
本当に静かなコース。野趣と構造物がアンバランスに配されている面白いコースでもありますね。本格的な山歩き志向の方には物足らないかもしれませんが、一度は歩いてみる価値はあると思います。
日頃のトレーニングを全く怠っているので、意外ときつくて、ロープウェイの駅に到着してそこの階段の上り下りだけで太ももの筋肉が悲鳴をあげてました。あかんなぁ。で、予定通りロープウェイに乗って下山しました。
往復ともにロープウェイを使うと体力に自信がない方でも山頂には行けますが、足もとの拵えはしっかりしたものが必要です。また、絶対に手摺りやロープを頼ることになるので、どんな季節でも手袋は必ず持っていってくださいね。もちろんハイヒールやスカートでは歩けませんょ。
おつかれさでした。
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